レイシャルメモリー 4-11


「おい、五年経ったって十三だろうが」
「十年経ったら十八歳、十五年経ったら二十三歳、二十年経ったら……」
 なにを言っているのかと、頭を抱えたくなる。ニーニアも年月が経てば、それだけ女性らしくなっていくのは当たり前のことだ。
 でも、まだ心の中にはユリアがいる。キッパリ振ってもらってよかったと思う。でも、いきなり振り出しに戻る必要も無いと思う。
 ふと顔を上げると、フォースの興味津々な視線と目が合った。
「何を考えているんだ?」
「なっ?! なななんにも……」
 慌てまくったサーディに、フォースは笑みを浮かべる。
「いや、サーディは一目惚れするような性格してないだろ。だったらじっくり付き合うしかないじゃないか」
「いくらなんでも惚れるのに五年も必要ない。心配してくれなくても、自分で探すし」
 たぶんユリアを好きになったように、また誰かを好きになれるだろう。だがまだ見せられる進歩はしていないのだと思い、サーディがため息をつくと、フォースは肩をすくめた。
「大変だよな。結婚相手を探すのも」
 探すという意味では、フォースは少しも大変じゃなかっただろうと突っ込みたくなるのをこらえ、サーディは苦笑した。嫌みの一つも言いたくなる。
「ホントだよ。ライザナル王家がメナウルから女の子を二人も連れて行くものだから」
 あはは、とサーディが醒めた笑い声をたてると、フォースは冷笑を浮かべた。
「じゃあ、スティアだけ返すよ」
「おま……」
 間を置かずに返ってきた言葉に、どう反応したらいいのか分からない。フォースはのどの奥で笑い声をたてる。
「冗談言ってないで、レクタードとスティアの婚礼の日取りを決めなきゃな」
 冗談という言葉で、スティアだけと言ったのが、自分の嫌みへの返事だったことを思い出す。サッサと話を切り上げてくれなかったら、ずっと悩んでしまうところだったとため息をついた。フォースは、じゃあ、と席を立ちかける。
「本人たちを交えて話した方が早いか」
 サーディは、ああ、と返事をし、フォースと一緒に立ち上がった。
「早いとこフォースを解放しないと、リディアさんが可哀相だもんな」
「え? 話し合いなら一緒に行けばいいだろ?」
 フォースの言葉に、サーディは訝しげな顔を向ける。
「寂しいとか言う以前に、結婚初夜だろ?」
 あ、と言ったきり、フォースは固まっている。忘れていたのかと思うと、笑いがこみ上げてくる。
「だから急いでるのかと思った」
 サーディはペロッと舌を出し、フォースの先に立って歩き出した。

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