レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第3部6章 胎動の大地
5. 自立 01
結婚式の余韻に浸る暇もなく、接見ばかりを繰り返す数日をおいただけで、フォースとリディアはマクラーンに発った。
九十日後に決まったレクタードとスティアの挙式と、フォースとリディアの披露目の用意、同日の終戦協定締結や条約を取り決めるための準備など、やらなくてはならないことが山積みなのだ。
ルジェナからラジェスへ向かう行程のみ二人で移動したが、残りすべての道は、馬車にいる時間すら様々な知識の習得にあてられ、自由にはならなかった。
マクラーンに到着してからは、また接見ばかりの日が続いた。親戚など披露目の前に会っておいた方がいい者、各機関の責任者で会う必要がある者など、クロフォードと数人の側近で話し合いがなされ、決められていたらしい。
そしてその接見が無くなった今日が、レクタードとスティアの挙式と披露目の儀、終戦協定締結の日だ。それまでの接見にもいくばくかの緊張はあったが、フォースはこの日の一連の儀式に感じる重みから、気を張り詰めずにはいられなかった。
「メナウル皇帝ディエント様と王女スティア様が、マクラーン城にお入りになりました。ご用意、お願いいたします」
知らせを持ってきたジェイストークは、フォースの横を通り過ぎ、クロゼットのある寝室へと入っていく。フォースはため息を一つついてからその後を追った。
ジェイストークが出した式服は、結婚式の時に着るはずのモノだったが、いつの間にか貴石やら金糸やらの装飾がたっぷり増えている。
「重そうだな」
ボソッとつぶやいたフォースに、ジェイストークが笑みを返す。
「いえ、陛下のお召し物に比べればまだまだ」
その言葉はフォースにはどうしても、追々増えていく、と聞こえ、気が重くなる。
「リディアの準備は?」
「ええ。そろそろ戻られるはずです」
ジェイストークの言葉を聞いてから、フォースは式服に着替え始めた。
朝食が終わったあとすぐ、リディアは準備のためと、イージスに連れて行かれている。リディアなら普段の姿でそこにいるのも、着飾って側にいるのも、フォースにはどちらでもよかった。ただ、着飾るときに準備といいつつ離れてしまうのが寂しいと思う。
おおかた着終わったところに、ドアの音が聞こえた。
「本当ですか?」
「ええ。挙式に使ったドレスはルジェナにございます」
リディアとイージスが部屋に戻ったようだ。
「あの、余計なことをいたしましたでしょうか」
「いえ。嬉しいんですけど、なんだか凄く贅沢だから」
開けっ放しのドアの向こうにリディアが現れた。髪は挙式の時と同じように緩く結い上げ、リボンや花で飾っている。ドレスも、リディアとイージスがしていた会話によると、同じ形の違うドレスのようなのだが、やはり飾りがたくさん増えていた。フォースと目が合ったとたん、リディアの表情が微笑みに変わる。
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