レイシャルメモリー 5-02


「フォース」
 早足で側に来て目の前に立ち、見上げてくるリディアの視線に笑みを返す。目に入ったそのドレスの飾りが、フォースの衣装にある模様とよく似ていることに気付く。
「微妙にお揃いだったりするんだな」
「今までは考えられなかったわよね。鎧と巫女の服だったから」
 リディアはそう言うと楽しげに笑った。リディアが笑っているならそれでいいかと、フォースは思わず納得してしまう。
「それでは、参ります」
 礼をしたジェイストークが、先に立って歩き出す。フォースはリディアとそのあとに続き、イージスは後ろからついてくる。
 マクラーン城内を客が進む時間は、計算され尽くしているらしい。メナウルの一行がどこを通ったと、報告を受けながら廊下を進む。途中で地色が薄いグレーの衣装を身に着けたレクタードと、アルトスも加わった。
 今回対面する手筈を整えてあるのは大広間になっている。皇帝同士の会見は謁見でも接見でもない対等な立場だとのことで、謁見の間を避けたからだ。
 だがフォースにとっては、皇帝やスティアはもちろん、その護衛についてくるルーフィスやグラントなどとも、気持ちの上では接見に近かった。
 二位の騎士になった頃、騎士の中では一番年下だが、地位は上から二番目、ルーフィスの次だった頃のことが、漠然と頭に浮かんでくる。その頃と一緒だ、緊張する必要はない、と、フォースは頭の中で繰り返していた。
 クロフォードとリオーネ、ニーニアは大広間にすでに来ていた。部屋に入っていくフォースに気付くと、クロフォードが歩み寄ってくる。頭を下げようとしたフォースの腕に、クロフォードが触れた。
「お前の挙式の時、サーディ殿下の護衛をしていたのがルーフィス殿なのだそうだな」
 いきなりの言葉に、はい、と返事はしたが、フォースは何を言っていいか分からずに、ただ視線を返した。
「式が始まってしまったら忙しくて話せないだろうから、ここで話をしようと思う」
「話、ですか?」
 クロフォードがルーフィスと話すと聞いて、フォースはエレンを思い浮かべた。両方で主張すれば、間違いなくこじれてしまうだろう。
「予定は余裕なくつまっている。ここで対面している間に、エレンの墓を見ていただくといい。通り道はあまり目立たぬように警備も配置してある」
 クロフォードはそう言ってほんの少し眉を寄せると、触れていたフォースの腕をポンと叩く。
「あの時移さなくても、改めて移設を要請することになった。それだけは事実だ。角を立てないよう、もっと考えるべきだったのかもしれん」
 その言葉にフォースは黙って頭を下げた。角を立てないようにという、その言葉を頼りにするほかはない。

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