レイシャルメモリー 5-03


 何をどう考えても、墓の移設は行われただろうと思う。母エレンは王妃以上の扱いを受けていたのだ。それは自分自身が皇位継承権を剥奪されないことでも身にしみて感じている。
 頭を上げたフォースに一度うなずいて見せ、クロフォードはリオーネとニーニアの待つ方へと戻っていった。
 数歩下がった場所にいたリディアが、すぐ側に立って不安げな顔を向けてくる。フォースはできる限りの笑みを返した。
「もしも席を外すことで何か聞かれるようなことがあったら、」
「メナウル皇帝ディエント様、王女スティア様、ご到着にございます」
 その声に口をつぐんで、ドアにいる騎士に視線を向ける。ドアに手をかけたのを見て目を戻すと、リディアはフォースにうなずいた。
「説明しておけばいいのね」
 返事の代わりにうなずき返し、フォースはドアにもう一度目をやった。開いたドアの向こうに、ディエントとスティア、そしてルーフィス、グラントなどの、懐かしい騎士の面々がそろっている。
 ディエントが入室し、少し間を置いてスティアと騎士二人が入ってくる。そこにクロフォードが進み出た。
「よくぞいらしてくださった。いきなりの婚嫁の受諾、感謝します」
 クロフォードが差し出した手を、ディエントが握る。
「娘には願ってもないお話です。終戦の決断も含め、こちらこそ御礼申し上げます」
 ディエントの一歩後ろにいたスティアが、ていねいにお辞儀をした。クロフォードは笑みを浮かべてスティアにうなずいてみせると、ちょっと失礼する、と、後ろにいる騎士に視線を移す。
「ルーフィス殿は」
「私でございます」
 ルーフィスはしっかりと礼をした。フォースは思わず息をひそめる。
「レイクスを立派に育ててくれたこと、感謝している」
「いえ、その必要はございません」
 ルーフィスの言葉に、クロフォードは首をかしげる姿勢で先を促した。
「私は、ただ自分の息子の成長を見守っただけにございます」
 フォースはルーフィスが自分を息子と呼んだことで、クロフォードが怒ったりしないだろうかと不安になった。心配をよそに、クロフォードは笑みを浮かべて口を開く。
「そうだな、レイクスはそなたの息子でもある。では私は、ルーフィス殿を父としてレイクスの側に置いてくださった神に感謝しよう」
 その言葉に、ルーフィスはほんの少し目を見開くと、もう一度頭を下げた。
「これからは私も同じように見守らせていただくが、よろしいか?」
「はい。おっしゃるまでもなく」
 ルーフィスは頭を下げたまま笑みを浮かべている。フォースは、自分が子供のような扱いを受けていることに苦笑した。ホッと息をついて視線を落とすと、リディアが涙ぐんでいるのが目に入り、そっと背中に手を添える。

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