レイシャルメモリー 5-04


「親父の増殖決定だ」
 フォースが耳元でささやくと、リディアは顔を隠すようにうつむき、笑っているのだろう、肩をふるわせている。
 顔を上げると、クロフォードと視線があった。墓に行けといっているのだと分かる。
「神殿にお付き合いください」
 フォースが話しかけると、ルーフィスは一瞬おいて軽く礼をした。フォースはリディアに、行ってくる、と言い残すとルーフィスと大広間を出る。
 確かに、少し遠巻きに警備がついている。フォースはクロフォードの心配りに感謝した。
「元気にしているようだな」
「父さんも」
 そう返すと、ルーフィスは笑ったように息を吐く。
「サーディ様も会いたがっていらしたが、今回はヴァレスで留守を任されているよ。バックスも一緒だ」
 ブツブツと文句を言いながら仕事をしているサーディが脳裏に浮かび、フォースは苦笑した。
「婚礼と披露目、終戦協定が無事になされたらルジェナに帰ります。水路のことも話さなくてはなりませんので、近々会いにうかがいます」
「水路? そうか」
 水路と言っただけで予測がついたのだろう、ルーフィスはうなずいた。
「しかし、大きな城だな」
 内装の豪華さにも、あきれているだろうことが、その表情からうかがえる。
 神殿を通り、地下に向かう。すぐに花に囲まれている棺が見えてきた。ルーフィスの視線を感じ、あれがそうです、とうなずく。
「綺麗だな。シェイドの墓だからもっと……。側に行っても?」
 フォースがうなずくと、ルーフィスは棺のすぐ側まで歩を進めた。そっと棺に触れる。背中を向けられているので表情は分からない。
「ゴメン。俺のせいで……」
 その言葉に振り向いたルーフィスの顔には、柔らかな笑みが浮かんでいた。
「いや、むしろ、よかったのかもしれん。ここなら寂しくないだろう。……、まさか、すぐ側にあるはずのエレンの笑顔を、懐かしく思う日がくるとはな」
 ルーフィスは苦笑して再び棺と向き合い、指先で棺をゆっくりと撫でている。
「私たちの息子は、想像以上に立派に育ってくれたよ」
 静寂の中、ルーフィスの小さな声が聞こえた。
「……、どんな想像してたんだよ」
 沈黙に耐えられずにそうつぶやくと、うつむいているルーフィスから、フフッと息で笑う声だけが返ってきた。

   ***

 洞窟を模して作られているこの部屋は、神殿の奥に位置している。中央に立っているのはレクタードとスティアだ。薄いグレーの地色で飾りを付けた衣装を身に着けている。

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