レイシャルメモリー 5-05
薄暗い中、岩壁に老神官の声が響き渡っていた。行われているのは、ライザナルでは正式な結婚式だ。
「我が胎内にて産まれし二人を、そしてその一つの愛を、未来永劫つつがなく扶育していくよう。誓いにサインを」
神官が渡したペンで、祭壇に置かれた誓いが書いてある用紙に、レクタードとスティアが順番に名前を記入する。
ライザナルの胎内、つまり子宮をイメージしているらしいこの場所を、フォースはひどく独特に感じていた。もしも同じような洞窟の部屋がルジェナの神殿にあったら、自分もこの式を挙げていたかもしれない。
リディアは隣の席から、目を細めて二人を見ている。フォースが見つめていることに気付くと、視線を合わせて微笑み、腕をからませてきた。そこから探って手をつなぐ。
「レクタード殿、スティア殿の婚姻が成立いたしました。お二人に祝福を」
レクタードとスティアは腕を組み、ごく身内の参列者の前を、一人ずつ礼をしながら通っていく。誰もが無言のままでいるように言われているが、胎内なのだから、それでおかしくはないのだろう。
二人が洞窟の外に出ると、参列者もゆっくりとその後に続いた。先に出たクロフォードが、おめでとう、と初めて声に出して祝福した。ニーニアがスティアに可愛らしいお辞儀をする。
レクタードとスティアは、ディエントとも礼を交わした。よろしくお願いするよ、と聞こえたディエントの声にホッとする。
フォースと目が合うと、レクタードは笑みを浮かべて側まで来た。
「ありがとう。レイクスのおかげだ」
そう言って差し出された手を握る。
「俺も感謝してるよ。両国の友好を示すにはちょうどいいし、友達が側にいるってのは、何かと心強いだろうし」
フォースの言葉に笑い合い、スティアがリディアと抱きしめあった。
「披露目の儀に移らせていただきます」
ジェイストークがそう声を上げ、廊下を指し示す。クロフォードがディエントと肩を並べ、謁見の間へと歩き出す。何か話しているようだが、その内容までは聞こえない。それでも、並んで歩いているという事実を、フォースは幸せに思った。
謁見の間には、先にクロフォードとディエントが入室した。中にルーフィスとグラントも見える。いったん扉が閉められた。
気を落ち着かせるために、軽く深呼吸をする。ジェイストークがフォースとリディアに口を寄せてきた。
「くれぐれも、予定通りの行動をとってくださいますようにお願いします」
リディアが、はい、と返事をした。フォースは、最初にこの謁見の間に入った時のことを思い出していた。予定をすべて無視して、自分がメナウルの騎士であること、戦の終結を望んでいることを発言したのだ。そんなことすら、すでに懐かしく感じる。
「レイクス様」
「分かってる」
再びたずねたジェイストークに、フォースは苦笑してそう答えた。アルトスが視線を向けてくる。
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