レイシャルメモリー 5-06
「本当だな?」
「くどい」
そう言い返しても、アルトスはじっとフォースを凝視してくる。
「だから、必要ないだろ。もうしない」
その視線に耐えられずに付け足すと、リディアが疑わしげな瞳を向けてきた。
「フォース、何かしたの?」
ウッと言葉に詰まったフォースに、アルトスは冷たい笑みを浮かべ、ジェイストークは声をひそめて笑う。フォースがリディアに、昔の話、と言いかけたところで扉が開かれた。
フォースはリディアの手を取り、視線を合わせてから足を踏み出す。後ろからは、レクタードとスティアが付いてきた。
謁見の間には、左右にたくさんの人が並んでいた。接見と言って先に合った顔も見える。フォースは隣にいるリディアを気遣いながら、クロフォードとディエントがいる場所まで進んだ。
クロフォードにお辞儀をする。顔を上げると、クロフォードの方から二人に近づいてきた。
「お前がいなければ、ライザナルは闇に呑まれてしまうところだった。リディア殿にも感謝している」
軽く礼をすると、クロフォードが腕をポンと叩いてくる。
「影から守ってくれたように、これからもこの国のために力を尽くしてくれ。ライザナルを継ぐのはお前なのだから」
とたんにまわりから控えめなざわめきが起こった。何を言い出すのかと驚いて顔を上げると、クロフォードは笑みを浮かべて口をフォースの耳元に寄せる。
「仕返しだ」
フッと笑ったクロフォードにフォースは苦笑を返した。
「できる限りのことをしてまいります。どうぞご指導のほど、よろしくお願いします」
フォースがもう一度礼をして顔を上げても、クロフォードはまだ目を見開いた顔でフォースを見ていた。
「お前、継いでくれる気に……」
「モノになるようでしたら、使ってください」
その言葉に、クロフォードは破顔した。いきなりフォースを引き寄せて抱きしめる。思わず、うわっ、と声を出してから口を閉じ、フォースは抱きしめられたまま首をすくめた。クロフォードの手がフォースの背中を二度三度と叩く。
「そうか、やっとその気になってくれたか」
フォースを離しても、クロフォードは笑みを少しも隠そうとしない。その視線がリディアに向いた。
「リディア殿、色々大変だろうとは思うが、どうか今まで通りレイクスを支えてやって欲しい」
「はい。生涯添わせていただきます」
リディアがていねいにお辞儀をすると、花束を手にしたニーニアがリディアの前に進んできた。クロフォードが背に手を添えると、ニーニアはお辞儀をしてリディアに花束を差し出す。
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