レイシャルメモリー 5-08
ここにいてなお、そう呼んでもらえることが嬉しかった。ディエントが言っていたように、あくまでも自分が自分らしくあればいいのだと思える。
「あそこに」
リディアに腕を引かれてその視線の先を見ると、マクヴァルを追った暗い通路で崩落にあい、怪我をした妖精が見えた。はばたいている羽がキラキラと輝いている。妖精はゆっくり近づくと、バルコニーに降り立った。フォースは妖精に礼をする。
「あの時は本当にありがとうございました。お元気そうで。よかった……」
「ありがとう。挙式の時にお邪魔しようと思ったのだが、ティオとリーシャが行くようだったので遠慮させてもらったよ。だが、今日でよかったようだ。あなたの決意を見ることができた」
妖精の凜とした笑みが照れくさい。横から見上げてくるリディアの笑顔に苦笑を返す。
「もしもこの先アルテーリアとヴェーナが完全に閉ざされてしまっても、寄り添い、隣り合った世界にかわりはない。どちらかに何かあったときには、間違いなくもう片方にも影響が出る。神はヴェーナにおられるが、それは人間にアルテーリアを託したことに他ならない。ヴェーナは私が守る。アルテーリアは、あなたが守ってくれると信じている」
妖精はフォースに向けてうなずくと、心配げに見ていたクロフォードに視線を移した。クロフォードに礼をし、もう一度フォースに笑みを向けて浮き上がると、妖精は空へと飛び立っていった。
「神がなぜ人の手を離したのか、真意を知ることはできないのでしょうね」
後ろにいるジェイストークが、ため息のように口にする。フォースはチラッとだけジェイストークを見やると、バルコニー前方の人々に向き直る。
「俺は今までそうやって育てられてきた。神が人を創り育ててきたのだとしたら、これが間違いだとは思いたくない」
「信仰の存在で人間に喧嘩をさせまいと、神が手を引いてくれた、ということも考えられる」
レクタードの後ろに立つアルトスが口を出した。ジェイストークの軽い笑い声が聞こえる。
「国と国が結びつくのは制覇ではなく和睦でしょうからね」
「どちらにしても、これから人間がどうやって生きていくかで答えが出るということだな」
「そう、神がいないんですから、これからは奇跡も起こせますよ」
いくぶん耳元に近づいて言ったジェイストークの言葉に、フォースは苦笑した。
「そんなものに期待なんてしない。俺は今まで通り、地味にやっていくさ」
「お前は立場が派手だから、それでちょうどいい」
冷たく言い放ったアルトスの声に、フォースはリディアと視線を合わせて笑みを浮かべた。
***
ルジェナ城の前庭は、花壇からあふれそうなほど、たくさんの花が咲いている。
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