レイシャルメモリー 5-09


「これも可愛いわ」
 休憩と言って出てきた庭を、フォースはリディアと散策していた。距離を置いてイージスがついてきている。
「元気がないわ、この花」
 そう言うと、リディアはその花を心配げに見つめる。
「え? あ……」
 フォースは、ラジェスの岩盤で咲いていた花を思い出した。ここもラジェスと同じように、育たない花も植えているのかもしれないと思い当たる。眉を寄せたフォースを、リディアが見上げてきた。
「フォース? どうしたの?」
「あ、いや、誰が庭を整えてくれているのか、タスリルさんに聞かないとな」
 うなずいたリディアが、行きましょう、とフォースの腕を引いた。前に視線を向けたリディアの足が止まる。
 どうしたのかと、その視線を追ったフォースの視界に、かがんで花をのぞき込んでいるマクヴァルが入ってきた。一瞬動悸が大きくなったが、マクヴァルの意識はすでに無く、他人と同じなのだと思い直す。
「大丈夫だ」
 フォースはリディアをかばうように腰に手を回した。リディアは黙ったままうなずくと、フォースの腕を抱いて頬を寄せる。心配したのだろう、すぐ後ろまで来ていたイージスが、また少し距離をとった。
 少し近づいたところで、向こうからフォースに気付き、立ち上がった。
「レイクス様。何もせず、お世話にだけなってしまい、誠に申し訳ありませんで。現在はペスターデと申します」
 そう名乗ると、深々と頭を下げる。フォースは、お気になさらずに、と口にしながら、ペスターデという名前を頭の中で繰り返した。リディアがこわごわ声をかける。
「ペスターデさん、花がお好きなのですか?」
「ええ。マクヴァルに支配されるまでは、植物を研究していましたから。ここの花ももう少し気をつかえば活力が出ますよ」
 フォースはリディアと顔を見合わせた。ペスターデは花に目をやって、さらに口を開く。
「土と植物自体の改良で、同じ花をもっと北でも咲かせることができるようになるんです」
「じゃあ、マクラーンの北でも作物の収穫は可能になりますか?」
 フォースの問いに、ペスターデが笑顔を向けてくる。
「現在でも可能だと思います。豆や葉の野菜で、霜が降っても枯れなかった種類があったくらいですから」
「霜が! 本当に?!」
「申し訳ありませんっ!」
 遠くからの叫び声に視線を向けると、ジェイストークが血相を変えて走ってくるのが目に入った。
「父さん、出てきちゃ駄目だってあんなに」
 ジェイストークはそこまで言うと、膝に手をついて肩で息をしている。
「ジェイ、かまわない」
「ですが、リディア様には恐ろしいでしょうから」

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