レイシャルメモリー 5-10


 顔を上げたジェイストークに、リディアが曇りのない微笑みを向ける。
「ありがとうございます。でも、違う人なのだと、きちんと納得しなければなりません。いつまでも怖いままでは失礼ですから」
 リディアはそう言って微笑むと、フォースを見上げてきた。座り込みそうなため息をついたジェイストークを無視してリディアに笑みを返し、フォースはペスターデと向き合う。
「先ほどの話ですが。できれば、主食にできて輸送にも耐えられる日持ちのいいモノがあるといいんですけど」
 ペスターデは少し考え込むと、ああ、と手を叩いた。
「それでしたらマクラーンの北、ディーヴァの山裾で育つ芋ならば見たことが」
「マクラーンの北で?」
 はい、とうなずくと、ペスターデは指で 小さな円を形作る。
「こんなもんだったかな。小さいので改良が必要ですが、掛け合わせていけば、寒冷地でも耐えられる、それなりの大きさの芋が作れるかもしれません」
 フォースはもう一度リディアと視線を交わし、ペスターデに向き直る。
「それ、作ってもらえませんか?」
「はぁ。しかし時間がかかります。生きている間にできるかどうか……」
「かまいません。やってもらえるなら、あなたを雇いたいのですが」
「私をですか?!」
 ペスターデと共に、ジェイストークがひどく驚いた顔をした。
「ですがレイクス様、父はほとぼりが冷めるまでマクラーンへ行くわけには」
「北の環境と同じ場所までディーヴァに登れば、ルジェナにいても作業はできるんじゃないかな」
「はぁっ? そ、それはそうですが……」
 フォースはジェイストークから視線をペスターデに移す。
「大変だろうけど。経費とか労賃をどの程度出せるか詰めてみるよ。考えておいてほしいんだ」
「わ、私はすぐにでも始めさせていただきたいと」
 祈るように手を合わせたペスターデに、フォースは笑みを浮かべた。
「じゃあ、まず芋を採取して運ばせないとな。アルトスにでも」
 ブッと後ろからイージスの吹き出す声が聞こえた。ジェイストークのほうけた顔を見たリディアが、ねぇ、と見上げてくる。
「マクラーンに行く頃に芋の掛け合わせができていれば、ペスターデさんも一緒に行けるわね」
「ああ。ある程度進んでいれば大丈夫だろ。当地の方が確実に決まってるんだから」
 ジェイストークの目に涙が浮かんでいるのに気付き、フォースはリディアの腕を引いて背を向けた。じゃあ後で、と片手を挙げて歩き出す。行け、とジェイストークの声がして、イージスの足音があわてて追いついてきた。
「あとで土をどうしたらいいのかも聞かなくちゃね」
 楽しげなリディアにうなずいて見せ、フォースは城を見上げた。二階の窓のタスリルと目が合う。

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