嘘の中の真実 3-1
ヴェルナの部屋を出てその足で自宅に寄り、持ち歩くのが面倒だと、フォースは真新しい上位騎士の鎧を身に着けた。家を出て表通りを市場の方向へと歩く。
「ねぇ、仕事、時間は大丈夫なの?」
「本来は休みなんだ。今晩から一日はバックスの仕事に付き合うことにしてるけど」
フォースの隣を歩くヴェルナは、まわりが気になるのか、落ち着かない様子だ。何度も、ホントに本物、とつぶやいてはフォースに苦笑させる。
「大変なんでしょう? その歳で上位騎士だなんて」
鎧を着けてから仕事の話ばかりしてくるヴェルナに、フォースは一つずつ丁寧に答えを返す。
「十四から普通に騎士やってるから、あんまり。成り立ての頃は辛かったけど。むしろ今は休みですることがないと手持ち無沙汰で」
「十六でそれって。寂しいわね」
そんな風に言われ、フォースはまた苦笑しか返せなかった。実際自分でも寂しいと思うのだ。
「好きな娘はいないの? もしかして昨日の話、待ってもらえないのが怖くて、他の娘で確かめたんじゃないの?」
ふとリディアの顔が頭をよぎり、フォースはうろたえた。騎士になる数日前、騎士三人に襲われているところを助けた娘だ。その出来事があったことで、騎士としてやっていくことを心に決め、迷いも消えた。大切な人だと思うし、国を守ることがリディアを守ることに繋がるなら、それだけで充分なはずだった。
「正解?」
「え? ……、いや」
確かにこの仕事のせいで、どう頑張ってもリディアとは年に数回しか会えない。フォースは普段、ここ城都ではなく、前線にいるのだ。しかも、自分に会うことで襲われたことをリディアに思い出させてしまうのなら、むしろ会えない方がいいと思う。
「女はね、相手の仕事なんて二の次。その人が好きなら関係ないのよ」
「そう、なのかな。でも、こんな仕事じゃ可哀想なだけだろ」
仕事がどうという問題ではない。だがリディアに起こったことまで喋る気にはなれず、フォースはただ無難に話を合わせた。
「あら、上位騎士って所に惚れてれば、帰ってこなくったって全然平気よ」
意表をつかれた言葉に、フォースは思わず吹き出した。だがその言葉が思い切り現実的に思え、フォースは力の抜けた視線をヴェルナに向ける。
「それも寂しい」
「やっぱり?」
ヴェルナは苦笑すると、フォースの顔をのぞき込むように見た。
「でも、じゃあ、どうしたいの? 可哀想じゃなければいいってわけでもないじゃない」
「そう、だな。思い切り矛盾してる」
「バカね。好きだから一緒にいたいって思うものでしょう?」