嘘の中の真実 3-2


 好きだから。その言葉が胸に響く。きっと自分はリディアが好きなのだろう。だからこそ、襲われたことなど思い出して欲しくないし、寂しさも悲しさも味わって欲しくない。そう、自分では駄目なのだ。
「ねぇ、誰も側に居ないよりマシだと思わない?」
 ヴェルナは自身を指差して笑う。ヴェルナと一緒にいれば、この寂しさも埋まっていくかもしれないと、フォースは漠然と思った。
 フォースが返事を返すより先に、ヴェルナは店先へと足を向けた。フォースも後からついていく。ヴェルナが受け取った大きめの紙袋を預かり、フォースは片腕で抱えた。
 ヴェルナが店を変えた時、琥珀色の長い髪がフォースの視野の片隅に映った。思わずハッとして目を向ける。リディアだ。まさか一人でいるのかと、人混みの間から知った顔を探す。その中にリディアの父親であるシェダの姿を見つけ、安心すると共にホッとため息が出た。
「ああいうのが好みなんだ?」
 もう一つ増えた紙袋を手にし、いつの間にか隣に立っていたヴェルナの声に、フォースの心臓が跳ねた。
「え? あ、いや……」
 好みという言葉が、フォースにはひどく安っぽく聞こえ、素直にはうなずけそうにない。ヴェルナは当惑しているフォースに笑みを向けると、琥珀色の髪を目で追う。
「綺麗で可愛い娘ね。いいとこのお嬢様かしら」
「神官長のお嬢さんだよ」
 フォースがヴェルナになんとか微笑みを向けて顔を上げると、こちらを向いているシェダと目が合った。フォースはその場から、シェダにしっかりとした敬礼を向ける。シェダはヴェルナにチラッと視線をやり、フォースに笑みだけ返した。そのままリディアの視線を遮るように位置を変えると、シェダはリディアの背を押すようにエスコートし、人混みに紛れていく。
 フォースはシェダの後ろ姿を見ながら、ヴェルナといる自分をリディアに見られなくてホッとしたような、いっそのこと見てくれた方がよかったような、複雑な気持ちに襲われていた。やはり、好きだからこそ、他の女性といるところを見られたくはない。でも、もし一瞬でも視線をくれたら、リディアのためにこの気持ちを忘れようという努力は、楽にできたかもしれない。
 ヴェルナは、二人が見えなくなったあとをじっと見つめているフォースの表情をのぞき込む。
「神官長さんだものね。緊張した?」
「いや、いまさら緊張はしないよ。付き合いのある家族なんだ」
「付き合い? 神官長さんの家族と?! って、そうよね、不思議なことじゃないのよね」

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