嘘の中の真実 3-3


 目を丸くしたヴェルナに、フォースはうなずいて見せた。翌日の晩には首位騎士である父と共に、シェダの邸宅まで行かなければならない。いつも行かないつもりでいても、結局はシェダと父の言いつけを断り切れなくなる。
「こんな風に女性と歩いていたりしたら、絶対シェダ様にからかわれると思ったんだけど。まさか、遠慮したのかな」
 フォースは首をひねって苦笑する。ヴェルナは、シェダとリディアが去っていった方向を見つめた。
「もしかしたら神官長さん、あの娘にあなたを見せたくなかったのかも」
「教育上よくないから?」
 フォースが冷笑しつつ返した言葉に、ヴェルナは肩をぶつけて、バカね、と笑う。
「あの娘、あなたのこと」
 ヴェルナは、肩をすくめたフォースの横顔に、そう言いかけて言葉を切った。振り返ったフォースに、首を横に振ってみせる。
「ん、ううん、なんでもない。あの神官長さん、とてもいいお父さんなのね」
 ヴェルナの言葉に、フォースは黙ってうなずいた。
 シェダは事あるごとフォースをからかうように、神官になってリディアと結婚しないか、と言葉を向けてくる。いまさら神官になどなれるわけがない。そんな自分は自分じゃないとフォースは思う。
 今、リディアは両親の元で幸せに暮らしているのだ。それを壊すような真似はしたくない。できるだけ関わってはいけない。好きだなんて気持ちは、自分の中だけで終わらせなくては。
 ふと、フォースは自分が押し黙ってしまっていたことに気付いた。ヴェルナが半歩後ろを歩いている。フォースは足を止めて、ヴェルナと肩を並べた。ヴェルナは少し驚いたようにフォースを見上げると、力の抜けた笑みを見せる。通り過ぎる人と肩をぶつけてよろけたヴェルナに腕を回し、フォースは抱えるように引き寄せた。
「私のは嘘、あの娘のは……」
 その言葉はあまりにも小さく、フォースには届かなかった。
「え?」
 何か言ったのかと聞き返したフォースに、ヴェルナは、一日だけ、とつぶやき、深呼吸をすると、声を大きくする。
「自分に腹が立ってきたの。バカよ、私」
 何を言っているのかと、フォースはヴェルナの顔をのぞき込んだ。ヴェルナは眉を寄せ、フォースを見つめ返す。
「もう、ほんっとに頭にくるっ。あなた、ちゃんと男なんだもの。十六歳のくせに!」
 その言葉に、フォースは呆気にとられて立ち止まった。
「え? それって、俺のこと怒ってるんじゃあ……」
「違うわよっ。さ、帰って食事食事っ」
 ヴェルナはフォースの腕を取り、家の方へと引っ張っていった。

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