嘘の中の真実 4-1


「今日はありがとう」
 一日を雑談で過ごし、バックスと待ち合わせの場所まで来ると、ヴェルナはフォースの唇に触れるだけのキスをした。
「ヴェルナ、俺……」
 フォースが抱きしめようとした手をヴェルナは優しく押しとどめ、微かな笑みを向ける。
「男って、抱かせてくれる女はみんな愛しいって思うように出来ているんですってね」
 怪訝そうな顔で見つめるフォースから視線を逸らし、ヴェルナは冷笑する。
「言ったでしょう? 嘘だと分かっていても、それでも愛されていると信じてしまうって。だから、あなたは私に愛してるなんて嘘をつかないで」
「でも、俺は」
 人差し指をフォースの口に添え、ヴェルナは、駄目よ、と静かに首を横に振った。
「私といると、あなた、いつでも細く張りつめたリュートの弦みたいなのよ」
 ヴェルナは、自嘲なのか眉を寄せた笑みを浮かべると、気持ちを隠すように目を伏せる。フォースはその言葉が理解できず、ヴェルナの両肩を掴むと、正面から向き合った。
「嘘だってつき通してくれれば、俺には本物と変わらない」
 フォースの言葉に、ヴェルナは目を見張った。何か言いかけた言葉を胸に手を当てて飲み込み、潤んでしまった目で精一杯の笑顔をフォースに向ける。
「バカね。あなたは流されることを覚えちゃ駄目。そうすれば間違いなく幸せになれるわ。いいわね?」
 そう言うと、ヴェルナはフォースを抱きしめた。
「一日付き合ってくれてありがとう。とても、……楽しかった。さよなら」
 その言葉と共に、ヴェルナは身を翻して駆け出した。みるみるうちに遠ざかっていく。一度途中で足を止めると、振り返って笑顔で手を振り、ヴェルナは雑踏の中へと消えていった。

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