新緑の枯樹 10-3
「フォース、その攻撃を受けさせてはもらえないか? ずいぶん昔のことになるが、私も一度アルトスと剣を合わせたことがある。その時の疑問を晴らしたいのでね」
「はい、分かりました」
俺は練習用の剣を二本手にし、一本をグラントさんに渡した。部屋の中央に出てグラントさんと対峙して礼をし、剣を前に差しだして剣身を一度ぶつける。俺は素直にそのまま攻撃に出た。
俺の剣は攻撃を受けたグラントさんの剣身の切っ先に向かって流れた。グラントさんの口元に笑みが浮かぶ。
「逆にも流せるか?」
「はい」
俺は間を取ってもう一度構えに入る。
「行きます」
俺は声をかけてから攻撃に入った。今度は剣身を柄に向かって流すように剣をぶつける。グラントさんは、その攻撃を振り払うように流した。
「確かにアルトスの癖、というよりも剣技だな。間違いない」
グラントさんは、練習の体勢を解いて俺の肩をポンと叩いた。
「教えてくれるか?」
「はい。ことは単純なのですが」
俺はグラントさんとバックスに、手にした練習用の剣を使って、インパクトの瞬間に剣身を少しひねること、その方向によって無理矢理相手に剣身を流させることができることを説明した。
「なるほど、それで妙な力が加わってくるわけだ」
グラントさんは、何度もうなずくと、持っていた剣を切っ先の位置が変わらないように気にしながら何度もひねって確かめている。
「しかしアルトスの力は相当だな」
「ええ、だからこそ腕ごと持って行かれるような錯覚が出てくるのだと思います」
一方バックスは、俺の話が終わると、黙ったまま練習用の剣を手にして素振りをはじめた。風を切る音に力を感じる。俺はその剣を受けに入った。キーンと音がして、剣は流れずに止まる。
「あれ?」
「遅い」
バックスはフンと鼻をならすと、もう一度剣を振り下ろしてくる。俺はその剣を簡単に払った。
「早い、か?」
「ああ」
遠慮をしていたバックスの剣に、回を増すごと力がこもってくる。俺は剣で受ける高さを変えて、何度もバックスの攻撃を受けた。注文も付け続ける。
「どっちに流れるかバレバレだ」
「切っ先の場所は変えるな」
「もっと小さいズレでいい」
その度に無言で振り下ろされるバックスの剣が、少しずつアルトスの攻撃を受けた感覚に近くなってくる。
アルトスが、死が。怖いなら、その分強くなりたい。そうじゃなきゃ向かってはいけない。逃げるのは嫌だ、絶対に嫌だ。
そのままどのくらい続けたか。バックスがグラントさんに肩を叩かれて、攻撃の手を止めた。
「なにも一度に覚えんでもいいだろう」
バックスが息を切らしながらハイと返事をする。俺は顔をしかめたのだろうか、グラントさんがこっちを向いて微笑した。
「あまりリディアさんを待たせるのもな」
すっかり忘れていた自分にハッとした。リディアを見ると、いきなり目があってドキッとする。バックスがドンと背中をどついた。
「普通は気にかけるんじゃなかったのか?」
「ブラッドがついてるんだ、大丈夫さ」
俺は言い返してしまってから、自分の言葉に矛盾があることに気付いた。