新緑の枯樹 11-1


 さっきから、座ったきり動く気になれない。宝飾の鎧を着けたせいだ。こう身体が重いと、気持ちも暗くなる。こんな時はこうして黙っていた方がいい。人がたくさんいても声をかけられることが滅多にないからだ。
 予行打ち合わせの後半でウィンを確保する予定があるからか、仲間であろう侵入者の死が脳裏に浮かんで離れない。リディアが流した涙も蘇ってくる。
 小さくリディアの声が聞こえた。そっちを向くと、人の波の向こうにソリストの衣装である白いドレスを着たリディアが目に入った。グラントさん、グレイの二人と向き合って柔らかな笑顔を見せている。
 今日のリディアの護衛は、グラントさんと俺で手分けして行うことになっている。宝飾の鎧を着けていると動きづらいので、その間リディアはグラントさんのところにいる。グレイがいるのは、リディアが聖歌を歌うその部分を指示するからだろう。
 ふとグレイと目があった。リディアに一言二言何か言うと、グレイは早足でこっちに来る。
「似合うよ」
 グレイは俺の側までくると、開口一番そう言った。
「嬉しくねぇよ」
「でも似合うよ」
 グレイは俺の隣に立ったままそう繰り返すと、含み笑いをしている。本気で言っているんだかいないんだか。思わずため息が出た。
「なんだ、フォースも元気がないな。もしかしてあの侵入者のことか? リディアに聞いたよ。階段から落ちて死んだ奴のことを、俺が殺したって言ったんだって?」
 リディアに聞いた、か。俺は、リディアの罪の意識が少しは軽くなるのではと思ったから、そういう言い方をしただけだ。うなずいた俺に、グレイがにらむようなキツい視線を向ける。
「まさか、まわりすべての死に、罪の意識を持っているわけじゃないだろうな」
 また何を言い出すんだか。俺はグレイに苦笑して見せた。
「全部覚えていると思うのか? 無理だよ。ただ、命を奪うことには慣れたくないとは思ってるけど」
 俺のその言葉に、グレイは怒ったのか、眉を寄せて目を細める。
「フォースがやってるのは、命を守ることだろう。命を奪うために戦っているんじゃないだろうが」
「なんのためだろうが関係ない。慣れたくない。それだけなんだ」
 いくらグレイに言われても、これだけは譲れない。俺がまっすぐ見据えると、グレイは視線を合わせたまま首を横に振った。
「だけどそれじゃ辛いだろう? せめてフォースがシャイア神を信仰しているとかなら、慰めようもあるってのに」

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