新緑の枯樹 11-2


「まるきり信仰してないってわけじゃない。けど、人の命に値する土地なんてどこにもない。戦が神の陣地争いのせいなら俺は……」
 俺は見ていられなくなり、グレイから意識的に目をそらした。グレイは声に出して苦笑し、俺の背を叩く。
「まあな。俺らの目からはな」
 何を笑うのかと、俺はグレイを見上げた。その目の前に、グレイは指を立てて突きだす。
「いいか? 考えても見ろよ。国を信じて国のために戦って死ぬのも、それはそれで自由だと思わないか? それがメナウルのためでも、ライザナルのためでも」
 なんのために戦うか。それを選ぶのは、本当に自由ってやつなのか。嘲笑しながら、心のどこかではそうかもしれないと、自分を当てはめて思った。
「だけど、もしそれが自由であったとしても、誰もが死にたくて死ぬってわけじゃないんだ」
「でも、自分の信じるモノのためならまだ幸せだろ?」
 グレイは、しかめっ面のままの俺と顔を突き合わせて、言葉を続ける。
「それにな、きっと死んだ後の世界っていい所なんだよ。行きたがらない奴はいるけど、帰ってくる奴はいないんだから」
 帰ってこられてたまるかと思いながら、ミューアの家が脳裏に蘇る。
「滅多に、な」
 俺が吐き捨てた言葉に、グレイは吹き出した。
「滅多にって、おいおい……」
 グレイが喉の奥で笑っているのを聞きながら、俺はその家でのリディアの祈りと、流した涙を思った。
「どっちにしても、人を傷つけずに人を守るのは、俺には不可能なんだよな」
「リディアのことか?」
 いきなりリディアの名前を出されてドキッとした。まったく、相変わらずさとい奴だと思う。
「い、いや、リディアのことだけじゃ……」
「あきらめたのか?」
 そう聞かれて、思わずムッとした顔でグレイを見上げた。グレイはまっすぐ俺を見つめてくる。
「守るってのは、護衛をすることだけか? それ以外に方法がない訳じゃないだろ。不可能だなんて、考えるのをやめちまったら、そこで終わりだぞ」
 考えたら何か出てくるってのか? 眉を寄せた俺に、グレイは肩をすくめた。
「ま、思い付いても実行がともなわなきゃ駄目だろうけど。その点フォースは不器用だからなぁ」
「不器用? って、いったいどういう補い方しろってんだ? いいよな、小器用な奴は」
 本気でねたんだ俺の頭を、グレイはいきなりひっぱたいた。
「痛っ、なにすんだ……」

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