新緑の枯樹 11-3


「フォースこそ、なんてこと言うんだ。俺だってなぁ、いろいろ苦労してんだよ」
 グレイはケラケラと笑った。こいつ、本当に苦労しているんだろうか。信じて欲しかったら笑わなければいいのだ。相変わらず脳天気だと思うが、今はそれに救われた気がする。
「よぉ!」
 まわりに最敬礼を受け、返礼をしながらサーディがこっちにくる。サーディまで脳天気に見えるのは、俺がそれだけ落ち込んでいるからだろうか。いや、それだけではないだろう。俺は立ち上がってサーディを待ち、敬礼を向けた。
「フォース、鎧、似合ってるよ」
 またこれだ。グレイが笑いをこらえている。俺はため息だけついて、返事をしなかった。
「なに? 怒ってるのか?」
「別に」
 ぶっきらぼうに答えると、サーディは考え込むように首をひねった。
「もう少し上機嫌でもいいはずなんだけどな」
 訳の分からないことを言うと、サーディはキョロキョロとまわりを見まわす。
「なぁ、リディアさんって……、あ、あの娘か?」
 人が増えてきていて見渡すことは困難だが、たぶん白いソリストのドレスが目についたのだろう、サーディはリディアの方を指さした。その指の先をグレイが見る。
「そうだけど? リディアがどうかした?」
「いやぁ、噂を聞いたんだ。神殿の人間と本人の耳には入ってないだろうから」
 神殿の人間がグレイだから、もしかしたら本人というのは俺のことか?
「フォースとリディアさんが恋仲なんだって」
 サーディは、反応をうかがうように俺をのぞきこんでいる。それにしても、グレイの前でそんなことを言われたら、リディアが可哀想だ。俺は冷笑した。
「んなわけないだろ」
「またまた。ゴートからの帰り、しっかり抱いて帰ってきたそうじゃないか」
「抱いてたぁ? 誰がそんなことを。あ……」
 俺は、抱くという言葉に驚いたが、眠っているリディアを支えたまま、街を抜けてきたことを思い出した。見ようによっては抱いているように見えないこともない。
「思い当たったようだねぇ」
 サーディがしたり顔になる。俺はため息と共に首を横に振った。
「そうじゃないって。疲れて眠ってるから、俺の前に乗せて身体を支えてただけだ」
「だから、それを抱いたって言わない?」
「言わない」
 しっかり言い切った俺に、サーディは肩をすくめて苦笑した。グレイが俺の肩に手を置く。
「なんだかんだ言っても、ちゃんとフォローしてるんじゃないか」

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