新緑の枯樹 11-5


 リディアはすぐに気が付いて身体を起こした。よかった、生きてる。無事みたいだ。
「……フォース? フォース!」
 リディアは俺の身体を揺すろうと手をかけた。
「待って。大丈夫だから」
 俺はリディアを止めて、ゆっくりと深い呼吸を繰り返した。少しずつだが体に自由が戻ってくる。リディアの手を借りて、上体を起こしてハッとした。
 木の幹の側にミューアとイアンがいる。やはり前の時のように二人とも無表情だ。ミューアは、やはり本人としか思えない。当時の中位の鎧を着けていて肖像画そのものだ。イアンは、前に襲われた時に探し出せなかった、金色の短剣を手にしている。その後ろには幻影なのか、やたらと大きな人型の影がボォッと見える。
 俺は無理矢理立ち上がってリディアを後ろにかばった。しかし身体がまだ思うようにならず、今は立っているのがやっとだ。しかも宝飾の鎧を着けていて、動きづらいことこの上ない。
 ミューアとイアンは距離を詰めてくる。俺は剣を抜いた。ミューアが振り下ろした剣を頭上でなんとか受けた。
 その時。後ろの影が手を伸ばした。そのでかい手が、俺の剣ごと右腕を捕む。と同時に、ミューアはサッとかき消えた。息をのんだ瞬間、ミューアの後ろにいたイアンがドンと正面からぶつかってきた。左胸から身体中が急激に熱くなってくる。イアンもボウッと薄れていった。そして宝飾の鎧にガードが当たるほど、短剣が突き刺さっているのが見えた。
 俺はその影のようなモノに、仰向けにひっくり返された。リディアの青ざめた顔が目に入る。そいつは短剣の柄に手を当て、短剣をガードごと俺の身体に押し込もうとしているかのように力を込めた。
「ぐぅ、あ……」
 胸を圧迫してくる力に、思わずうめき声が漏れる。
「フォース!」
 リディアが俺の側に駆け寄ってかがみ込む。俺はリディアまで犠牲になってしまったらと焦った。
「駄目だ、逃げ……」
 止めようとはしたが、声が息にしかならない。
「嫌っ、やめて!」
 リディアは短剣に手を伸ばした。影は、空いている手でリディアをそっと掴んで遠ざける。
「放して! お願い、やめてぇ!」
 リディアに危害を加える気はないのか、影の手はリディアを拘束だけしている。リディアは無事でいられると思うと、張っていた気がゆるんだ。
 短剣が光を放ちはじめ、まるで溶けるように俺の身体に染み込んでいく。自分が燃えだしたような感覚に、俺は意識を手放した。

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