新緑の枯樹 12-1
気が付くと、あの木の側にいた。あらためて見ると、木は大きく形を変えていた。太い枝がいくつも折れ、幹も傷んでしまっている。落ちた俺とリディアを受け止めてくれたからだ。
それだけではなく、なんだかまわりの雰囲気も違う。辺り一帯が、妙に暖かで美しい光に包まれている。まるで草木の緑も、石の城壁も、空気ですら自らが虹色の光りを発し、互いに乱反射しているようだ。
俺は上体を起こして、身体が異様に軽いことに気付いた。何気なく手を見ると、いくらか透けている。そうだ、イアンに刺されたんだっけ。変な影みたいな奴が出てきて、それで俺は……、死んだのか?
「おい」
その声に、俺は頭を上げた。そこに膝があって、俺はもっとずっと上を見た。
「お前は、さっきの……」
大きさは影と同じくらいだ。ただ、ここにいるのは実体だ。ずんぐりした体型に長い腕、目がギョロッとしていて、口は裂けたように大きく、耳が尖っている。妖精か? だとしても、怪物に近い容貌をしている。
そいつはゴツくて長い腕を伸ばし、いきなり俺の首を掴んだ。その手が握るような力を込めてくる。息苦しくなって初めて、透けていても俺は空気とは違うんだと気付いた。
「ティオ? 駄目よ」
女性の弱々しい声と同時に、首にかかっていた力がゆるんだ。ティオと呼ばれたでかい奴が、声のした方を振り返る。そいつが木の根本に駆け寄ると、身体がみるみる小さくなっていき、子供ほどの大きさになった。木の幹に身体を預けて座っている女性に声をかける。
「フレア。でもあいつは」
「分かってね。ゴメンね。ティオを苦しめるつもりはなかったのだけれど」
その人は、白い指でそいつの頬を撫でた。細い腕、華奢な肩、そしてその顔を見て俺は息をのんだ。
「あの時の!」
そこにいたのは、最初に襲われる前に、この木の下で俺にキスをした、その人だった。
俺の声に、小さくなった奴が刺すような視線を向け、うなり声を出す。
「お前がフレアを!」
「ティオ、違うわ。私がこの人を助けたかったの。それだけなのよ」
その人は、ゆっくりと答えた。その言葉で、木の上に落ちた時に、俺の手を取ってくれた枝の存在を思い出した。
「あなたは、もしかしたら……」
俺がつぶやくように言ったのが聞こえたのか、その人はこっちに手を伸ばしてきた。俺は側まで行ってその手を取り、苦しげに浅い息を繰り返しているその身体を、抱きかかえてその場に寝かせた。人間と同じような耳があらわになる。妖精? いや、人間なのだろうか。