新緑の枯樹 12-2


「お前、何も知らないんだな。妖精なら耳が尖っているはずだなんて思ってるのか?」
 ティオと呼ばれた奴は、俺の疑問を察したのだろう、バカにするように言った。どうせ俺は昔からひねたガキだったから、妖精になんてお目にかかったことはない。
「私はこの木に宿る妖精なの。人間は私のことをドリアードと呼ぶわ。本当は、あなたも私のモノにしたかったのに……」
 ドリアード? ってことは、あのキスはこの人の誘惑だったのだ。俺の中に押し込めていた感情を、飲み尽くしたかったのだろう。側に置き、俺のすべてを束縛するために。
「でも駄目だったわ。私の力が弱くなってしまったのか、あなたの思いが強かったのかは分からないけれど」
 ドリアードは瞳を閉じた。荒くなった呼吸を整えるように、肩まで使って息をしている。黙って聞いていた怪物のような奴が、かわりとばかりに口を開く。
「お前をあの剣で貫けば、半端にかかった魔法は完全になるはずだった」
 あれが魔法? 痛いという感覚と違ったのはそのせいか。といっても、あそこまで深く胸を刺されたことはないから、比べようもないが。
 いかにもイライラしているふうにそいつは言葉を続ける。
「それなのに、どういうわけかお前の感情はそのまま残っているし、しかも邪魔されて身体を持って来られなかったから、精神しかこっちに来ていないし」
 邪魔? もしかしてリディアがこいつの邪魔をしたのか?
「まさか、リディアになにか」
「手なんか出せるか! 人間のくせに俺が見えてるんだぞ? 見えてるのに恐がりもせずに。信じられない」
 俺の言葉を遮って言うと、そいつは眉間に縦皺を寄せた。ドリアードがフフッと笑う。
「見える人はいるわ。いろいろなわけがあるのよ。ティオはまだ百七十八歳だから」
 まだ百七十八だ? 俺の十倍生きてるじゃないか。
「うるさい、若いんだ、人間とは違う」
 そいつは俺と目があっただけで、そう言って返した。それにしても、何も言わないうちからうるさいとは。そいつは忌々しげにため息をつく。
「フレアは妖精だけどドリアードだから寿命があるんだ。なのにお前が……」
「ティオ、分かってね。ゴメンね」
 ドリアードは、笑ったのか、ため息なのか、弱々しい息を一つ吐きだした。
「もう私は死ぬわ。そうしたら、あなたもほかの騎士達も、魔法が解けて人の世界に戻るの。あなたは身体が向こうにあるのだからダメージも少ないでしょう」
 もう? この人が、この木が? 俺を助けたせいで死ぬのか?

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