新緑の枯樹 12-4


「お前が、フレアを!」
 俺に斬りかかってくるミューアの前に、ティオが立ちはだかった。ミューアが振り上げた剣をティオは短剣で受けた。と同時にガシャッと鈍い鎧の音を立てて、ミューアが崩れた。そう、崩れたのだ。緩やかな風に乗って、身体だったのだろう粉末が、少しずつ流されていく。一番の被害者は、人生のほとんどをドリアードと過ごしたミューアなのだろうと思った。
「これ返す」
 ティオは、今ミューアの攻撃を受けた短剣、最初に襲われた時になくした俺の短剣を差しだした。
「お前が投げてイアンがはじいたこれ、俺に刺さった。痛くて逃げた」
 俺は思わずティオの身体を見回した。ティオは右膝の上部を隠す。
「なんでもない、もう治った」
 隠したってことは、傷が残っているからだろう。きっとまだ完治していないのだ。もしかしたらティオは、見かけとは違って優しい妖精なのかもしれない。俺はその短剣を受け取った。ティオは悲しげに、大きく息を吐きだした。
「最近フレアは、死ぬのが怖くなったみたいだった。だから騎士を選んで木の下に引き入れてた。ミューアだけは違ったけど。愛してるって何度も言ってた」
 それは魔法によるものだったのか。それとも本当にドリアードを愛していたのか。だとしたらミューアも本望だったのだろうか。
「君も彼女を?」
「俺はスプリガンって種族だって、フレアが言ってた。宝物とか妖精を守るガーディアンなんだって。でも守れなかった」
 ティオは、泣いているような震えた声を出す。
「お前はいい。あの娘をちゃんと守ってる」
「いや。俺も間違えてた。リディアを守るために、すべてを投げ出してはいけなかったんだ」
 俺は自分の透けた手を見た。きっとまた泣かしてしまったのだろうと思う。リディアを悲しませたのは、俺が生きようとしなかったからだ。ティオは、俺が握りしめた手をジッと見ている。
「俺、どうしたら守れるか、分からない」
「君が本当に守りたい人を守れば、きっと理解できるさ」
 そうだ。俺が守ろうとしたのがリディアだったからこそ、いろいろ考えたり悩んだりしたのだ。ティオにとっても、きっとそうに違いない。
「そうかな。じゃあ俺、また主人を捜す」
「そうだね、それがいい」
「お前、もう戻れ」
 声をかける間もなく、ティオは俺の両肩をトンと後ろに押した。いきなり夢の中で落下したような感覚があり、ハッとして目をあけた。俺の身体はベッドに横になっているようだ。すぐ側には父の姿があった。俺が目を開いたことに気付いたのか、顔を覗き込んでくる。

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