新緑の枯樹 12-5


「フォース?」
 俺は父が俺の名を呼ぶのを、ただボケっと眺めていた。どうして父がいる?
「ここは……、前線?」
 寝ぼけたような声が出た。父は心配げに俺を見下ろしている。
「城都だ」
 城都? ならどうして父がいるのだろう。父は俺が疑問に思っていることを悟ったのか、苦笑した。
「お前が心配だったから戻った。バルコニーから落ちただの、心臓をひと突きされただの、生きているとは思えない話しが聞こえてきてな」
 そう、生きているってことは、自分でも信じられないくらいに不思議だ。
「だが、眠っているように見えるとも聞いた。ワケがわからん。とりあえず顔を見ようと思ってな。ウィンは確保したが、仲間のことも、お前の様子についても何も話さん」
 そりゃそうだ。ウィン達とドリアードなんて、なんの関係もないのだ。
「お前が刺されたという日から、もう五日にもなる」
「五日?」
 ドリアードの領域には、ほんの数分いたという感覚しかない。むこうで気が付くまで五日もあったのか? それともその数分が五日だった?
 俺は上半身をベッドの上に起こした。身体は向こうに行く前とほとんど変わらずに動くようだ。ふと、手にティオから渡された短剣を握っていたことに気付く。
「いつからこんなものを持っていたんだ?」
 父は不思議そうにその短剣を見つめた。イアンがはじいた剣だ。
「そうだ、イアン!」
 父が訝しげな視線をこっちに向ける。俺は父に身体を向けた。
「あの木のところに、行方不明になっていた騎士達がいるはずです」
「なんだって?」
 父の顔が緊張して引き締まった。いったいどの時点から五日経ったのか。急に彼らのことが心配になってくる。
「無事だろうか。時間の経過が、よく分からなくて」
「ここにいろ」
 父は俺の肩をポンと叩くと、部屋を出て行った。
 俺は、ベッドを降りて立ち上がり、あたりを見回した。シェダ様に借りた、女神付きの騎士の部屋だ。五日前までは、この奥にリディアがいた。
 その方向に視線をやると、突然目があった。まるでイアンを思い出させるような無表情なリディアに、一瞬ドキッとした。そのリディアの氷のような表情が崩れ、瞳からいきなり涙があふれ出す。

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