新緑の枯樹 12-6
「フォース……? フォース!」
リディアは駆け寄ってきて俺に抱きついた。
「フォースなんて大嫌い! フォースに勇気なんて無かったらよかったのに!」
残された者の気持ち。たぶんそれを味わわせてしまったのだ。俺はリディアをそっと抱いた。こころもとないくらいやわらかな身体が震えている。
「なんにも考えられなくて、泣くこともできなくて、どうしたらいいかも分からなくて、私……」
リディアのぬくもりが鎧のない身体に、じかに伝わってくる。
「ゴメン。でも俺、どうしてもリディアを失いたくなかったんだ。どうしても」
「命をかけるような事じゃないでしょう? そんなに仕事を大切にしなくたって」
仕事じゃなくても俺は……。って、え? 仕事?
「いや、リディアを助けたかったのは護衛をしているからじゃなくて、自分の気持ちに正直に従っただけで」
「嘘!」
顔を上げて、リディアは涙で濡れた頬をふくらました。これを嘘と言われると、いくらなんでもムッとする。
「嘘なんかついてない」
「嘘つき! 放して。わからずや、偏屈、とうへんぼく、エッチ、スケベ、野蛮人!」
リディアは俺から離れようと、俺の肩に手を当ててつっぱった。俺は逃げられないように、リディアを抱えた腕に力を込める。
「イヤだ! これを嘘だなんて言ってるうちは放さない。他のは全部合ってるかもしれないけど、嘘だけはついてない」
リディアの抗う力がだんだん弱くなってくる。
「だって、嘘よ。父が結婚しないかって言った時、さっさと断ったじゃない」
「神官になって結婚しないかってヤツだろ? どう考えたって俺が神官なんてできるわけが……。え? もしかして、リディアをフッたのって、俺?」
虚をついた質問だったのか、リディアは疑わしげに俺を見上げた。泣いたせいもあるだろうか、顔が赤い。
「他に誰がいるのよ」
「グレイじゃなかったのか?」
俺の即答に、リディアはひどく驚いた顔をした。そしてあふれてきた涙を隠すためか、俺の胸に顔をうずめた。
「もう! バカ、ドジ、間抜け、意地悪、鈍感……」
俺はリディアをしっかり抱きしめた。一つも具体的に言い返せないのは虚しかったが、俺は単純に嬉しかった。
でも。
今のリディアはシャイアのモノなのだ。十八歳になれば、見習いではなく本物のソリストになってしまう。腕の中にリディアを感じながら、俺は俺自身のためにシャイアからリディアを取り返したいと、初めて本気で思った。