新緑の枯樹 13-1


 明晩は婚姻二十周年式典がある。最初は唯一の仕事だったはずの、ソリストの護衛をする日だ。予行の打ち合わせには、結局一度も出られなかったので、ソリストであるリディアと一緒に、シェダ様立ち会いのもと、グレイから手順やら立ち位置やら教えてもらった。
 それから俺は一人で城内警備室を目指した。そこでウィンを取り調べるのだ。ウィンはまだなにも話していないと聞いている。ウィンが使う特殊な剣技を持つのは、今のところライザナルでも狭い範囲の人間だけだ。だが実際ウィンと剣を合わせたのは俺だけだったので、俺がいない間はとぼけ続けることができたらしい。その俺は、妖精の世界を出てこっちに戻ってから、ウィンにはまだ合っていない。
 城内警備室のドアをノックすると、あまり間をあけずに中からバックスが顔を出した。俺が部屋に入る前に、耳元に口を寄せてくる。
「サーディ様、怒ってるぞ」
 バックスは身体で隠しながら中を指さした。やっぱり来ていたのか。そうだろうとは思っていた。式典の事務的な準備で忙しいサーディとは、まだ顔を合わせていなかったのだ。
「なにしてる。早く入ってこいよ」
 サーディが焦れたように声をかけてきた。バックスは、さも面白そうに含み笑いをする。
「ほら。ものすごーく」
「分かったって」
 そう言いながら俺は、サーディにはサッサと会っておけばよかったかと少し後悔した。バックスとグラントさんの前を通って部屋に入り、俺はひざまずいてサーディに最敬礼をする。
「式典の説明は受けてきたのか?」
 俺は、サーディの声がずいぶん素っ気ないと思いながら、ハイと返事をした。
「リディアさんは?」
「神殿の執務室にいます。シェダ様とルーフィスが付いています」
「それなら安心か。飛び降りたって一階だしな」
 げ。すげぇイヤミ。といっても俺に文句を言う資格はない。
「読んだよ。四通目の報告書」
 確かに帰城してから書いた報告書は四通目だ。サーディの言葉に、いちいちトゲがある。
 今回の報告書は、昨日リディアに説明しながら書いた。質問攻めにされたからか、妙に書きやすかった。だが、報告書を書くことに慣れたわけではないと思いたい。
 机の向こうにいたはずのサーディの声が、いつの間にか頭の上から降ってくる。
「飛び降りても木があるから、ひどくても怪我ですむと思ったってぇ?」
 スパーン! と盛大な音を立てて、丸めた報告書で最敬礼の後頭部をひっぱたかれた。
「バカやろ、見てる方はそうは思えないんだよ! あぁ、ワケわかんないけど腹立つ腹立つ腹立つ……」
 頭を抱えている俺に向かって、サーディはブツブツと文句を言っている。
「ゴメン」
 頭を上げて謝った俺に、サーディは顔を突き合わせてきた。
「修理費、給料からさっ引くからな」

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