新緑の枯樹 13-2
「修理費? あっ!」
そういえば鎧のことを忘れていた。無事なわけがない。直ったのだろうか。元々値段が付かないほどの鎧なのだ。修理にはいったいいくらかかるんだろう? そんな心配をしていると、サーディがケラケラと意地悪そうに笑いだした。
「冗談だって。ただし、そうそう飛び降りられちゃ、こっちの身が持たないから、あんまり動けないようにたっぷり金属たして、もっと重くしておいたからな」
嘘だろ? そんなに重くなっていたら、歩けるかどうかすら不安だ。自分の顔が引きつるのが分かった。
「しかも、ドリアードをたぶらかしたって?」
「ええっ? 違う。そんなことしてないって」
こらえられなくなったのか、バックスが吹き出した。それを合図にしたように、グラントさんが側にくる。
「もう、許してやっていただけませんか」
一瞬グラントさんの方を見てから、サーディは大きなため息をついた。
「いや、むしろ褒めるべきなのかもしれないとは思うんだけど、なんだかな」
「任務があったのも事実ですし、私は自分の落ち度を補ってもらった立場ですので、彼を責めるのなら、先に私を処分していただかないことには」
グラントさんは深々と頭を下げた。俺のとんでもない行動をグラントさんに謝ってもらうなんて冗談にもならない。
「申し訳ありません」
俺はもう一度サーディに向かって、あらためて最敬礼の体勢をとった。こうなったら謝る以外ない。俺がいくら考え方を変えたと言っても、心の中の変化なんて、口で言って通じるモノじゃない。それに、いきなり何もかもいい方に変化しているなどと、自分を過信してはいけないとも思う。
「まったく……」
あきれ返ったような口調だが、サーディの顔には苦笑が浮かんでいた。
「なんにしても、フォースも無事でよかったよ。ドリアードのところから戻った他の騎士達は妙に歳くってたりしてるから、手放しじゃ喜べないんだけど」
イアンは結局六日ほど行方不明になっていただけだったのだが、見た目では十歳ほど歳を取っていた。だからといって四人が同じような時間の経過をしたとは思えないのだ。ラルヴァスは少しも変わっているように見えない。同じところにいたのに時間の経過がバラバラだなんて、俺には考えられないのだが。
実際、俺の過ごした時間がどうだったのかも分からない。でも一つ言えるのは、リディアが邪魔をしてくれたおかげで、俺の身体はこっちにあった。つまり、無駄に歳を取らずに済んだのだ。いくら感謝をしてもしきれない。精神的に歳を取ったかまでは、実感もないし俺には分からないけれど。
いくつかの鎧の音が廊下から聞こえてきた。
「来たようです」
グラントさんの呼びかけで、サーディがうなずく。ウィンが連行されてきたらしい。俺はサーディに呼ばれて隣に立った。ドアにコンコンとノックの音が響く。