新緑の枯樹 13-3
「ウィンを連行してまいりました」
ゼインの声だ。バックスがドアを開ける。ゼインとクエイドが部屋に入り、その後ろにブラッドとアジルに確保されたウィンが姿を現した。ウィンは俺の顔に視線を向け、表情を硬直させる。
「生きて……?」
立ち止まったウィンを、アジルとブラッドが引きずるように部屋に入れた。一番最後からは父とリディアが入室する。リディアはゴートでのことが気にかかっているので、わざわざここに顔を出したのだろう。
父がドアを閉めた音を合図にしたように、ウィンが話しの口火を切った。
「まさか本当に生きていたとはな。やっぱり女神の力ってわけだ」
女神? アタリだ。こいつらは思った通り勘違いをしていたらしい。おかしさと、もうリディアが狙われることは無いという安心感から、笑いがこみ上げてくる。
「ライザナルではドリアードを女神って呼ぶのか?」
「ドリアード?」
ウィンは訝しげにリディアに目をやった。
「違うって。リディアは普通のソリストだよ。降臨を受けてるワケじゃない」
俺の言葉に、ウィンは驚きの表情を見せ、それをごまかすように作り笑いを浮かべる。
「まさか。今さら嘘は必要ないだろう。じゃなきゃ、ただのソリストを、どうして飛び降りてまで助ける必要があるってんだ」
「どうして、……ってしかたないだろ、俺にとっては大切な人なんだ。残念だったな」
ウィンは呆気にとられたように俺をジッと見ている。それにしても、なんで公衆の面前で俺の気持ちをぶちまけなきゃならないんだか。サーディが向けた怒ったような視線に俺が肩をすくめると、ウィンは嘲笑するように笑って口を開いた。
「俺は、女神の降臨、または降臨したと疑わしき人物がある場合は、ただちにその人物を殺害するよう命じられてきた。わざわざ上位騎士が前線から戻って警備に当たるソリストだから、降臨を受けた可能性は大いにあると解釈した。まさかそれがただの逢い引きだったとはな」
「いや、まだ逢い引きならよかったんだけどね。あれはもともと単なるガキのイタズラだ」
なぁ、と俺はサーディに同意を求めた。そう、あの時リディアを木の下によこしたのは、グレイとサーディが企んでのことだった。サーディの目が丸くなる。
「ガキってグレイと俺か!」
でかい声で言ってから、サーディは口を押さえた。もう遅いって。
「バカバカしい。いったい俺達は何のために……」
ウィンはため息とも笑いともつかない息を吐き出してうなだれた。ミューアのところに隠れていた奴も、リディアを抱えて飛び降りたセンガも、結局は無駄死にということなのだ。
「いやぁ、よくやった」
クエイドがいくぶん引きつった笑顔で近づいてくる。
「ライザナルの諜報員を探し出すとは」