新緑の枯樹 13-4


 ウィンに向き直ろうとしたクエイドの手に、一瞬金属的な光が見えた。ウィンに向かって突き出そうとしたその腕を、俺はとっさに掴んだ。その手には短剣が握られている。
「なんのつもりだ!」
 俺が一喝すると、クエイドは悪びれもせずに冷笑した。
「こいつは重罪人だしライザナルの人間だ。生かしておくことはない」
「あなたには、この人の命を奪う権利なんてない!」
 俺はクエイドの腕をひねって、その手から短剣をもぎ取った。クエイドは剣の無くなった腕をふりほどく。
「何をする! 私にもメナウルの民の敵を討つ権利はあるはずだ!」
「こんな卑怯な真似するくらいなら前線に出ろよ! 武器も持たない弱い立場の人間を刺し殺そうとするより、正々堂々武力で向かってくる奴らと戦えばいい!」
 押さえていたつもりだったクエイドに対する怒りが思わず爆発した。クエイドはグッと言葉に詰まっている。父が気持ちを抑えろとでも言うように、俺の肩をポンと叩いて俺の前に出た。
「クエイド殿、重罪人だからこそ、聞けることは山ほどあります。安易に殺してしまうことが、どれだけの損害になるかも分かりかねますし。取り調べや処分は軍部に任せていただけませんか」
 いくら騎士の人事考課のお偉方でも、軍部で考え抜かれ、陛下の意を通して選ばれる数字付きの騎士には逆らいようがない。クエイドは父に軽く頭を下げた。
「分かりました、お任せします。では、私はこれで」
 クエイドは、にらむような目で俺を見てからドアを乱暴に閉めて部屋を出て行った。うつむいてクックと盗み笑いをしていたウィンが、父に挑戦的な視線を投げる。
「甘いな。俺がこれ以上、何か話すと思っているのか」
「いや、話すとは思っていない。お前の処遇はフォースが決める。いいな?」
 父は首を巡らせて、俺に確認するように視線を合わせた。
「いいんですか?」
「かまわんよ。前線に戻る時に連れていくといい」
 思わず聞き返した俺に、父は穏やかな表情で言った。俺の考え方を、理解してくれるかもしれないとは期待していた。だが、実際のところ本当にそうさせてもらえるとは、思ってもみなかった。
「ありがとうございます」
 とにかく俺は父に頭を下げた。
 俺のやり方を認めてもらえたのなら、こんなに嬉しいことはない。そうじゃなくても、今回はリディアが絡んでいる。厳しく取り調べたり、処刑してしまったりということはしたくない。なにより、そんなことでリディアを傷つけるのは避けたかった。
「どういうつもりだ? 俺を国へ帰すというのか? まさか本気か?」
 ウィンは疑わしげな目を俺に向けた。

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