新緑の枯樹 1-3


 身体から一気に力が抜けた。まだ生きていると思うと、半ば呆然としてしまう。
「フォース」
 いきなり後ろからどつかれた。斬られた肩がズキズキする。
「生きてるか」
 聞き慣れた声に、俺は心の中で舌打ちをした。父だ。体格は俺より一回り大きいのだが、まだこの人に守られているのかと思うと、何だか少し腹立たしい。
 父と言っても、俺は俗に言う連れ子というやつだ。血の繋がりはない。髪の色が俺と同じなのは単なる偶然だ。当然瞳は紺ではなく、普通にブラウンの目をしている。母が生きていた頃は中位の騎士だったが、今では騎士長だ。首位、もしくは一位の騎士と呼ばれている。単に力という意味から母に付けられたフォースという名前を四世と勘違いしている人も多く、連れ子という事実が不思議なほど広まっていかないため、俺は世間ではいい跡取り息子で通っているようだ。
「今のは誰です? 知ってますか?」
 俺が普通に口をきいたことで、父はホッとしたらしい。柔和な表情に変わった。
「ライザナルの総大将で、アルトスという奴だ。よく無事だったな」
「なんだ、強い訳だ」
 俺は袖を少し切り取り、剣を鞘に収めてから、布切れを傷に押しつけた。たいした怪我じゃないので、これで血も止まるだろう。
「城都に戻れ」
 その声にハッとして父を見た。どういうつもりで言った言葉なのかその表情を探る。
「連続でぶつかって、またアルトスに出くわす可能性が高いと分かっていながら何故出た? 判断が甘すぎる」
「だけど」
「お前のしている事の結果を知ることと、お前自身の命と、どっちが大事だ? こんな無駄なことは国の為にはならない。同じ無駄なら城都に行って働いてこい」
 俺はグッと言葉に詰まった。悪いのは俺だと分かっていても、無性に腹が立ってくる。だが、そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、父は俺に背を向けた。状況を見るように回りを見渡す。
「陛下が、婚姻二十周年式典でのソリストの護衛をお前にと望んでいらっしゃるそうだ。どうしても宝飾の鎧を着せたいらしいな」
 そう聞いたとたん、今ここで宝飾の鎧を着けているのではないかと思うほど気が重くなった。ゴテゴテと石やら飾りやらが付いていて、ひどく重い鎧なのだ。あんな物を着けていて敵に襲われたら、真っ先に斬られるに違いない。その喉当て下に付いているサファイアとかいう濃紺の石が、俺の目の色と同じらしい。似合いそうだからと前に頼まれた時には鎧がデカくて話にならなかったが、三年経って俺の方が育ってしまったというわけだ。陛下のご希望では断れない。俺が思わずついたため息に、父は向こうを向いたまま喉の奥で笑った。

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