新緑の枯樹 1-4


「お前の隊は城内警備や神殿警備につくことになる。休暇ではないが、少しは骨休めにもなるだろう。ただ、城都ではここ一年ほどで、騎士が三人行方不明になっている。まだ何も分かっていないらしいが、気を付けるといい」
 何も分かっていないんじゃ気を付けようがない。 俺はブスッとしたまま形だけキチッとした敬礼をし、ハイと生返事をした。
「では後ほど辞令を受けに参ります。よろしいでしょうか?」
 父がこっちを向き、頷いて敬礼を返したのを見てから、俺は敵が去って一息ついている兵士達の元へと急いだ。
 このまま城都へ帰るのは、アルトスから逃げるみたいで嫌だ。だがまた会ったとしても到底勝てるとは思えない。いくら悔しくても考えるだけ無駄なのは分かっている。でも腹立たしさは収まらない。
 兵士達は傷を受けた者の手当をしたり、談笑をしたり、それぞれ思い思いの行動をしていた。兵士達は、駆けつけた俺に気づいた順から、パラパラと敬礼を向けてくる。
「隊長? どうしました?」
 ロングソードを背負ったアジルという兵が、息切れのひどい俺に声をかけてきた。背は俺より少し小さいが、ガッチリした体つきをしている。兵歴が長く実力もあり、その風貌のせいもあってか、俺の隊の中では親分みたいな存在だ。俺は深呼吸で息を無理矢理整えた。
「みんな、無事か?」
「怪我したのはいますが、生きてますよ。強かったのは、あの騎士ぐらいですかね」
 確かに、見たところ情けないが俺の怪我が一番酷いくらいだ。俺は浮かんでくるアルトスのイメージを頭の中から振り払って、みんなを見回した。
「しばらく城都勤めになりそうだ」
 その言葉はため息混じりで小声だったが、聞いちゃいないと思っていた奴らまで喜びの反応を示した。こっちでさんざん飲んでいるはずの奴が酒が飲めると喜んでいたり、遊べるだの休めるだの好き放題言っている。ここでの勤務に比べたら、城都勤めは楽に違いない。父が言うように、彼らの息抜きにはちょうどいい機会なのかもしれない。
「それにしてもあの騎士、こんな所まで三度も出てきて、いったい何しに来たんでしょうね」
 アジルは衝突の後の安心感とは違う、妙にニヤけた顔をしている。蒸し返されたアルトスの話に、俺はムッとした。
「戦なんだ。何でも有りだろう」
 近くの兵の間に、なぜか失笑が広がる。訝しげな顔をした俺に、アジルのニヤニヤがますます酷くなった。
「隊長に惚れて襲いに来たんじゃないですかぁ? あそこで騎士長が来なかったら、どうなってたでしょうねぇ?」
 事情を知っているのにそこまで言うか、それともただの冗談か。その脳天気さに開いた口が塞がらない。しかし俺にはもう、その言葉に抵抗するだけの気力は寸分も残っていなかった。

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