新緑の枯樹 13-6


「いや、君に私の後、二位に就いて貰おうと思ってね」
「はぁ? なに言ってるんですか。陛下にお許しもいただいてないじゃないですか」
 ゴンと、父が俺の頭にげんこつを落とした。なんで殴る? 俺は頭を抱えて父を見上げた。父はいかにも不機嫌そうにため息をつく。
「本当は、しかるべき歳になってから首位を継がせようと思っていたのだが、お前のやり方を首位になって続けるわけにはいかないだろう。陛下もサーディ様も交えてすべて話しは済んでいる」
 俺のやり方? 話しは済んでいるだって?
「アルトスが動くほどだ。このまま君がしていることを、国の意志として取り入れてもいいのではないかということになってな。まぁ、あまり組織だって行動されては困るのだが」
 そう言うとグラントさんは、呆気にとられている俺に、そのマントを突きつけた。
「受け取りなさい」
「は、はい」
 そう返事をした俺の手の上に、グラントさんはしっとりとした感触のマントを乗せた。
「実は、君がどんな人間なのか知りたくて、ブラッドを付けさせてもらったんだ。それが、元々前線に出たいと言ってはいたが、君の隊への配属を希望するまでになってな。彼もまっすぐな人間だから、君のことも信じられると思ったんだよ」
 ブラッドは、そう、まっすぐかもしれない。だから前の俺に腹を立てたんだ。
「あ、でもグラントさんは、これからどうされるんです?」
「私か? 陛下に退役を止められてね。しばらくはそのまま城内警備に就かせていただくことになったんだ。君の直属の部下と言うことになる。よろしくお願いするよ」
 直属と聞いて、言葉に詰まった。
「うわ、俺もか」
 ゼインがつぶやくように口にする。今まででさえわけが分からない関係が多かったのに、これじゃあ父以外はみんな年上の部下になる。いや、むしろその方がそろっているから面倒はないかもしれないが。
「あ、いえ。こちらこそ今までと変わりなくご指導のほどを」
「君に教えることばかりそうそう無いよ。引き継ぎくらいはしなきゃならんがな。明日の午前中くらいまでは開けてもらうよ」
 グラントさんは可笑しそうに声を出して笑った。それじゃあリディアと話しができる時間なんてほとんど無い。俺も笑ってごまかしたい気分だ。
「でも、いつ決まったんです? 陛下は帰城されているんですか?」
 サーディが苦笑を浮かべる。
「今朝なんだ。フォースを起こしには行ったんだけど、まぁよく寝てるし、なんだか声かけていいような雰囲気じゃなかったからさ」
「えぇ? なに言ってんだよ、起こせよ。寝てるのに雰囲気もなにもないだろうが」
「いや、だって」
 サーディはチラッと視線を走らせた。その視線の先で、リディアがハッとしたように口を押さえる。半分隠されたリディアの表情に赤味が差した。父がリディアへの視線を遮るように一歩前に出る。

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