新緑の枯樹 13-7
「それでは、私はこれで」
父の敬礼に、みんなが返礼をし、俺もつられるように返礼をした。
「行きましょう」
父はリディアをエスコートして部屋を出た。そこで振り返って俺を指さす。
「ちゃんと仕事してこい」
そう言って父はドアを閉めた。……、なんなんだ、いったい。
「フォース、リディアさんに何か悪さしたんじゃないのか? 有意に隔離されてるみたいだぞ?」
ゼインはいかにも疑っているように、不機嫌な声をだす。
「なんにもしてねぇよ」
俺は吐き捨てるように言葉を返した。昨晩のは悪さのうちに入らないよな、などと、少し不安になったりする。サーディは、肩をすくめて苦笑した。
「隔離されてるのは、リディアさんの方だったりして」
「まさか」
ゼインがバカにしたように笑う。
「いや、それがな」
サーディは、誰に聞かれたくないのか、身を乗り出して小声になる。
「今朝フォースを起こしに行った時、部屋を覗いたらリディアさんがね、ジーッと見てたんだ、フォースの寝顔」
気持ちが半分パニックになったが、俺は驚いて吸い込んだ空気をため息にして吐き出した。
「だから、起こせよ……」
茫然としているゼインを放っておいて、俺は考えを巡らせてみた。リディアは何を考えながら俺を見ていたのだろう。
「何かあったのか?」
サーディは真剣な顔で俺をのぞき込んだ。冷やかしてこないってことは、それだけリディアが重大な雰囲気でも作っていたんだろうか。
「何かもなにも、こっちにきてからはいろいろありすぎて」
「いや、そういう意味じゃなくて」
「じゃあ、どういう意味で?」
あからさまに困っているサーディに追い打ちをかけるように言い、俺は手にした赤いマントを見てため息をついた。
リディアと話そうにも、まるで時間がない。時間を作るには、兎にも角にもやることだけやってしまわないとならない。引き継ぎも数字付き騎士だなんて、いつまでかかるか分からない。二位なんてのは、もしかしたらそうやって時間を削るために取って付けられた地位のような気さえしてくる。もしそうだったら、とんでもないどころの話しじゃないが。
「グラントさん、今から引き継ぎを受けてもよろしいでしょうか」
「かまわんよ」
グラントさんの表情が、そこはかとなく楽しそうに見える。なんだかグラントさんにまで、面白がられている気がしてくる。
「まぁ、引き継ぎなんて単純だよ。やっていることは、この棚一つにまとめてあるからな」
そう言ってグラントさんが指さした棚は、やたらとでかく見えた。