新緑の枯樹 14-1
俺は、長引いた引き継ぎを終え、重くしたと言われていた宝飾の鎧を着けに城内警備室に寄った。いざ見てみると、宝飾の鎧は動きやすい形に作り替えられ、おまけにずいぶん軽くなっていた。わざわざ俺がいつも鎧を頼んでいる職人に、新たに作らせたそうだ。おかげでサイズまでピッタリだ。これじゃあ、弁償するっていったって、どうしていいか分からない。しかもサーディは、宝飾の鎧を使う行事があるごとに、俺を前線から呼び戻すつもりでいるらしい。次は一ヶ月後、サーディの妹姫であるスティア様の誕生会だ。二位になると前線と城都の行き来が激しくなると聞いてはいたが、宝飾の鎧のおかげで、その頻度も増えそうだ。だが、その方がリディアに会う機会は増えるかもしれない。
そして今、俺はリディアとほとんど話す間もなく式典の会場にいる。城都で唯一の仕事だったはずの、ソリストの護衛だ。ようやくリディアに会えたのが式典の出番直前だったので、簡単な挨拶しかしていない。ひざまずいて最敬礼をしているので、リディアの顔は見えないが、歌声がすぐ側から聞こえてくる。だが、いつものように安らかな気持ちになど、とてもじゃないけどなれそうになかった。
ここにあがる前、シェダ様が俺を呼んだ。何かと思えばまたあれだ。
「神官になる気になったかね」
俺は当然できないと断った。そんなことはシェダ様もいい加減承知しているはずだ。
「リディアは君の死をとても恐れている。悲しませるようなことはして欲しくない」
まるで、騎士はサッサと死ぬが、神官なら死なないとでも言いたげな口ぶりだ。確かに、騎士の仕事は安全だとは言えない。だが、そういうレベルで言われると、俺の気持ちの変化なんて、説明する気も起きなかった。もしかしたらシェダ様は、リディアにそんなことを延々聞かせていたのだろうか。だったら、リディアを必要以上に怖がらせているのはシェダ様の方じゃないかと思う。それともまた、全部承知で俺をからかっているんだろうか。
リディアの歌が終わり、手筈通りにリディアをエスコートして退出する。これで城都での仕事は全部終わりだ。
俺は、入れ替わりのシェダ様に無言で頭を下げた。シェダ様は俺に薄く笑って、リディアの肩をポンと叩くと会場へ入っていった。相変わらず何を考えているんだか分からない人だ。
「お疲れ」
グレイが声をかけてきた。手をあげるだけで簡単に挨拶をする。疲れるようなことは何もしていない。シェダ様とすれ違う時の方がしんどいくらいだ。グレイは俺に笑顔を返すと、リディアに向き直った。
「リディア、よかったよ。後は二人とも、会場にでもいてくれればいいからね」
「はい」