新緑の枯樹 14-3
木は、ここに落ちた時と同じ姿のままそこにあった。緩やかな風に葉が擦れあって、サワサワと心地よい音を立てている。リディアは立ち止まった俺の横を通って、木の幹の側に立った。
「ありがとう。ごめんなさい」
リディアはつぶやくようにそう言って、木肌をそっと撫でた。髪が肩からサラサラと落ちて、うつむいた悲しげな顔を隠していく。
「もう、何を言っても届かないのね」
分かっている。残された者の気持ちには、無力感や罪悪感をごちゃ混ぜにしたような絶望しか残らない。
「フォース?」
ふと、リディアがかがみ込んだ。隣にひざまずいてリディアの視線を追う。その先、折れてしまった木の根本から、まだ小さな木が育ちつつあった。
「きっと実が落ちて芽吹いたのね」
そうかもしれない。この小さな木は、次の世代の命なんだろうと思う。
「同じ妖精が育たないかしら」
「それは……。彼女は死んでしまったのだから」
リディアの白く細い指が、その小さな命をそっとなぞった。一瞬、木がまるで呼吸をするように、微かな光をふくらませたのが見えた気がした。
「でも、輪廻ってあるかも知れないわよね」
輪廻か。そうだといい。本当にもう一度、彼女が生まれてくることができたなら。いや、そうだとしても、起こってしまったことは、何も変わりはしない。俺は立ち上がって、リディアの様子を横からのぞき込んだ。
「ゴメン。辛い思いばかりさせてしまって」
リディアは、顔を上げずに、笑ったのかため息なのか、小さく息をついた。
「だけど、フォースは私を助けてくれているのよね」
本意じゃない。俺にはリディアの言葉がそう聞こえた。
「俺もリディアには助けられてる。最初にドリアードに会った時、リディアが来てくれたからドリアードは逃げたんだろうし、ティオが俺を連れて行こうとした時には、それを止めてくれた。感謝してる」
リディアは、その時のことを思い出しているのだろうか。視線が虚空を泳いでいる。
「それは、フォースが死んでしまうと思ったら、怖くて……」
リディアは顔を上げて俺を見つめた。
「私もフォースに辛い思いをさせたの? 怖いって思ってくれた?」
俺はうなずいた。あの時、リディアがティオに殺されてしまうのではないかと思うと、とても怖かった。何もできない自分を呪った。リディアは俺に向き直る。
「ねぇ、だったら分かって。もっと自分を大切にして」
たぶんこれからは、少しずつでも変わっていけると思う。どう変われるかなんて、ハッキリしたことは言えそうにないけれど。