新緑の枯樹 14-4


「フォースを待つのはとても怖いの。ずっとこんな風に待つのは辛いの」
 それも分かってる。ずっと辛い思いをさせてきた。それは後悔している。でもこんな言葉を聞くと、どうしてもシェダ様の言葉が頭をよぎる。
「それは俺が騎士、だから?」
「それも、あるわ。だって助けてもらっても死んでしまったら感謝のしようもない。そんなの悲しいでしょう?」
「それも? あるって?」
 俺はリディアに逃げられないよう、その身体を挟み込むように両腕を掴んだ。
「シェダ様がどうこうじゃなく、リディアがそう思うのか? リディアまで俺が神官ならいいとでも言うのか?」
「そうだったらいいって思ったこともあるけど……」
 ズンと胸が痛む。神官になってしまう俺なんてありえない。それは絶対に俺じゃない。
「俺が神官だなんて死んでるのと同じだ。そんなの、俺が生きてる価値すらどこにもないじゃないか」
「分かってる。だからもういいの。いいの」
 リディアは、身をよじって俺から離れようとした。俺は掴んでいるリディアの腕を引き寄せるようにして、俺に向き直させる。
「いいって、何が!」
「だから私、せめてシャイアにフォースの無事を祈っていたいの。フォースが幸せでいてくれればそれでいいから」
 リディアの瞳から、涙がこぼれ落ちた。いつもは暖かなそれが、今は俺を凍り付かせるほど冷たい。
「なんだよそれ……。結局は俺と関わりたくないんだな。俺の手が血に汚れてるから? 俺には同情してるって? 俺はそんな気持ちなんか欲しくない!」
 リディアが息をのむのが分かった。俺はリディアの髪に指を差し入れ、背中にも手を回し、動くことも許さないだけ力を込めて抱きしめた。そのまま乱暴に唇をあわせる。リディアの身体がビクッと跳ね、俺から離れようと抵抗する。だが俺は、この腕にガッチリ抱いたまま、リディアを離すつもりはなかった。
 唇を離したら、この腕の戒めを解いたら、リディアはどうするだろう。殴ればいい、罵ればいい。それで終わりだ。同情とか兄弟みたいな愛情とか、リディアの想いがそんな半端な感情なら、俺もリディアも互いに傷つけ合うだけだ。だったらそんな想いはなくなってしまえ。すべてをぶち壊してやる。
 ガシャッ、と、すぐ後ろで鎧の音がした。唇を離すと、リディアの視線が硬直したように俺の後ろに向けられた。空を切る音? 左だ! 俺は剣を鞘ごと抜いて、後ろを見ないまま剣身を受けた。力で押し切られるような格好になり、肩のプレートまで使ってようやく剣の勢いを止める。
「バックスさん!?」
 リディアの呼んだ名前に驚き、俺は振り返った。バックスが剣を頭上に掲げる。

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