新緑の枯樹 14-5


「なんの冗談、うわっ!」
 バックスが振り下ろした剣を、俺は鞘に収まったままの剣で受けた。渾身の力を込めても、剣が押し戻されてしまう。凄い力だ。力だけならアルトスと比べても遜色ない。バックスと目は合ったが、その視線は俺を通り越しているような気がした。やっとのことで剣身を振り払い、体制を整える。
 間をあけずにバックスは斬りかかってきた。今度は剣を抜いて受けた。しかし剣身が流れる。なんとか流しきることはできるが、その強烈な力のせいで一撃ごとに腕への衝撃が積み重ねられてくる。こんな攻撃をバックスに教えるんじゃなかったと後悔したがもう遅い。何とかしなければ、本当に斬られてしまう。だが、相手はバックスなのだ。何とかするといっても、斬り捨てるわけにもいかない。剣身を避けようとして、折れた枝に足を取られ、俺は仰向けにひっくり返った。目前に突き出される切っ先を転がって避け、バックスが地面に突き刺さった剣を引き抜く間に、どうにか体制を整える。
「ティオ、やめて!」
 リディアの声と同時に、振り上げようとしたバックスの剣が一瞬鈍った。だがバックスは、次の攻撃の体制に入る。
「フォースを斬らないで! ティオよね? そうでしょう? お願い、やめて!」
 今度はバックスが完全に止まった。腕を剣ごとダラッと落とし、前のめりに倒れてくる。俺は焦ってバックスを受け止めようとしたが、腕がひどくだるく、体まで使って抱き留めるようにし、ようやく地面に転がした。
 枯れてしまった木の幹の横に、ボウッと空気が揺らいで大きな影ができ、ティオが形を表してくる。人を操る魔法を使っていたのは、ドリアードではなくスプリガンだったのだ。
「いったいなんでこんな事を」
 俺は無理矢理息を整えて言った。ティオは俺をにらみつけるように見る。
「俺は、この人を守る」
 そう言うと、ティオはチラッとリディアに視線を走らせた。
「なんだって?」
 俺だけではなく、リディアも驚いたように大きな妖精を見つめている。
「お前はこの人を守っているんだと思ってた。でも今は違う。全部壊すつもりだった。この人の心まで壊すつもりだった。だったら俺が守る。お前はいらない」
 そう、確かにその通りだ。俺はティオに何も言い返せなかった。悲しげに顔をゆがめたリディアと、ティオをはさんで視線が合う。気まずさから俺が視線をそらすと、リディアはティオの向こう側に姿を隠した。俺は自分に嘲笑を向けた。
「俺はお役ご免ってワケだ。勝手にしろ!」
 俺はいたたまれなくなって、その場を後にした。
 わざわざティオが説明してくれたおかげで、俺が何を考えていたか、リディアも理解したに違いない。ティオがついていればリディアが多少危険な目に遭っても、しっかり守ってくれるだろう。なにも心配はいらない。
 ……、これは、俺が望んだことだったはずだ。

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