新緑の枯樹 15-1
いつものように、前線に出発する前の少しの時間、サーディの部屋に寄った。例によってグレイも一緒だ。二人は普段と変わらずにいるが、俺は昨夜のことを引きずったまま、なんとか態度だけ取り繕っていた。
「皇太子妃候補を指名するってあれか? リディアさん」
グレイがお茶を吹き出しそうになるのを見て、サーディはケラケラと笑った。
「だって、リディアさんなら間違いなく断るだろ?」
「そりゃ、そうだろうけど」
グレイは呆れたように言うと、サーディに冷笑を向ける。
「だからかな? 今朝リディア、目を泣きはらしてたんだよ」
「ええ? そんなに嫌だった?」
「かもな」
今度はグレイが笑い声を立てた。リディアを泣かせたのは俺だ。当然か。あんなひどいことをしておいて。
「でも、もしかしたら違うかも」
いきなり心臓に悪いことを言うと、グレイは考え込むように腕を組んだ。
「昨日の晩から、変なガキがリディアにくっついて歩いてるんだ」
それはティオに違いない。ドリアードと話しをした時には、人間の子供のような姿をしていた。どうやらティオは、本気でリディアを守るつもりのようだ。
「妖精らしいんだけど、トイレや風呂にまで付いていこうとするらしくて、リディアが困ってた」
トイレや風呂? ティオは、そんなことまで教えなければわからないのだろうか。サーディが俺の肩を叩く。
「フォース? 聞いてるか?」
「え? 聞いてるよ」
俺は慌てて答えた。サーディが、横から俺の顔をのぞき込む。
「なぁ、リディアさんを泣かせたのって、お前じゃないのか?」
俺が言葉に詰まっていると、グレイが笑い出した。
「決まってんだろ、そんなこと」
サーディはグレイを、てめぇとかこの野郎とか言いながらどついている。だが俺には笑い事ではない。思わず大きなため息をついた。
「だけど、俺のも原因かもしれないんだよな」
グレイは落ち着き払った様子で言うと、お茶を一口飲む。俺は逆に、気持ちがザワザワと逆立った気がした。
「リディアに何か言ったのか?」
思わずムッとした俺に、グレイが視線を向けてくる。
「ソリストには向いてないって」
あまりの意外さに、俺は思わず息をのんだ。グレイは、俺をとがめるように正面から見据える。
「正直に言っただけだよ。リディアは向いてない。それはフォースが一番わかってるだろ」
その言葉は、俺の頭の中を真っ白にした。それから少しずついろいろな思いが形を成してくる。