新緑の枯樹 15-2


 そうだ。俺が考え無しにシェダ様に返事をしたせいで、リディアはソリストを始める気になった。しかも俺を手伝うつもりでだ。ヴォルタの湖畔で、リディアは自分の口でそう言ったのだ。そして昨日、俺の無事をシャイアに祈りたいと言った。俺が幸せならそれでいいと。これではリディア自身の幸せは、どこにもないじゃないか。俺は席を立った。
「俺、行くよ」
「え? もう?」
 サーディがキョトンとしたように俺を見ている。
「ああ。行け行け」
 グレイはそう言うと、肩をすくめて苦笑した。俺は、じゃあと一言だけ挨拶をして、急いで部屋を出た。
 リディアは、リディアのすべてをかけて、俺を想ってくれていたんじゃないか。なのに俺は、そんなリディアの気持ちを半端だと言って、ぶち壊して……。このままじゃいられない。どうしても、このままじゃ。
 とにかくリディアを探さなければ。もう、どうにもならないかもしれない。でも、会って謝るだけでもしておきたい。一ヶ月先まで謝ることもできずにいるなんて、耐えられない。俺は大雑把に城内を見てから神殿の方へ足を向けた。
「おい」
 横から声をかけられ振り向くと、バックスがいた。昨日の今日なので、思わずそのまま様子をうかがう。いつもの笑顔のようだ。
「もうじき出発だろ? 何やってる?」
「リディア見なかった?」
「いや、見てないけど? 神殿じゃないのか?」
 簡単な挨拶で通り過ぎようとした俺を、バックスは腕を掴んで引き留める。
「おい、ちょっと待て。昨日なんだけど、気付いたら折れてしまった木のところにいるし、リディアさんが目の前で泣いてるし、起き上がってみたら腕やら肩やら筋肉痛になってるし、無茶苦茶ビックリしたんだ。俺、もしかして、なんか悪さでもしたのか?」
 不安そうにのぞき込んでくるバックスの顔が鬱陶しい。
「いや、悪さしたのは、俺」
「はぁ? ……、あ、おい!」
 俺はバックスが止める声を無視し、苦笑だけ残して神殿へと急いだ。
 城と神殿の間にある渡り廊下にさしかかる。そこにはもう、木の気配は少しも残っていなかった。だが、今度はティオの向こう側に見たリディアの悲しげな顔を思いだして、俺は思わず足を止めた。くそったれなどと毒づきながら、こぶしで壁を叩きつける。
「なんだよ。なにかあるのかよ、そこ」
 気が付けば、ゼインが訝しげに俺を見ている。俺は慌ててかぶりを振った。
「え? あ、なんでもない」
「相変わらず変な奴だな」
 こいつには変だとか言われたくないが、この壁を気にしているのを見られたのは二度目だ。仕方がないかもしれない。
「リディアさん見なかったか?」
 こっちから聞こうとしていたことをゼインに尋ねられて、一瞬ゾッとする。
「いや」

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