新緑の枯樹 15-3
「神殿は探したんだけどな。どこにいったんだか」
神殿にいないだって? じゃあ、いったいどこに?
「もう行くだろ? ほとんど集まってたみたいだしな。じゃあな」
「え? ああ」
俺は、廊下の木がある方の反対側、城の前面にある広場へと向かった。リディアはどこにいるんだろう。だが、もう探している時間がない。発たねばならないのだ。足が重くて、急ぐ気にもなれなかった。
広場に一番近い出入り口から外に出た。すぐに俺の隊が集まっているのが見えてくる。そこには一緒に前線に向かう父もいた。どやされると思うとますます気が重い。ただでさえ引きずるような思いを連れているのに。
「すみません。遅くなりました」
父に向かって頭を下げると、頭の上にボンと布のような物を乗せられた。何かと思って手にしてみると、二位の印のマントだ。
「忘れ物だ」
そのマントを手にして、俺は自分に呆れてため息をついた。父は俺をまっすぐ見下ろしている。
「何をしていた」
「リディアを探して……」
俺がボソッと口にすると、父の眉が不機嫌そうに寄った。
「人様のお嬢様を呼び捨てにするとは何事だ!」
「リディアさんを探してましたっ」
大きくなった父の声に、俺は慌てて言い直した。
「噴水のところにいるぞ」
父があごで示した方へ、驚いて視線を向けると、リディアは神殿の正面入り口に程近い噴水の端に腰掛けて、水に手を浸していた。その側にある木の葉が、風でサワサワと揺れている。水に反射した光が、うつむき加減で影になった悲しげな表情を浮かび上がらせた。
そういえば俺が城を出る時は、まるで見送ってくれているかのように、リディアはいつもそこにいた。まさか昨日あんな事をして、今日もそこにいてくれるとは思ってもみなかった。思わず足を踏み出そうとして、小さな子供に気付いた。ティオだ。ちょうどリディアを隠すように移動して、こっちを見ている。
「まだブラッドが来てないんですよ。もう来るとは思うのですが」
いつの間にか側に来て、アジルが告げた。俺は、そう、とため息混じりに返事をする。
「何やってるんですかね?」
そんなこと知るかと思いながら、アジルの方を見ると、アジルはあっちだとばかりに噴水を指さした。
一瞬、呆気にとられた。リディアはなぜか噴水の中にいるのだ。びしょ濡れになりながら、何か大切そうに抱え込む。ティオは噴水の外側で、ただ騒いでいるばかりだ。
「待ってて」
俺は誰の返事も聞かずに、噴水に駆け寄った。
「なんか用かよ」
ティオが膨れた顔を向けてくる。