新緑の枯樹 15-4
「見てられない。守るって言ったなら、きちんと守れ」
「守ってるだろ」
「バカ言え、どこがだ」
俺が噴水の側に立った時、ちょうどリディアが水から出てきた。その目は、まだいくらか赤い。
「何やってんだ」
俺が手を差し出すと、ほんの少しとまどってから、リディアはその手を取った。
「木から、この子が落ちてきたの。溺れちゃったら可哀想だから」
リディアは、胸に抱いている鳥の雛を俺に見せた。
「うわ、待てって」
俺は慌てて、手にしていたマントでリディアの身体を包む。
「大丈夫よ?」
「服、身体に張り付いて透けてんだよ」
俺が耳元で言うと、リディアは目を丸くして、俺が掛けたマントの端をしっかりあわせた。ティオがリディアとの間に割り入ってくる。
「ほら、大丈夫って言ってるだろ?」
「どこが大丈夫だ? なに見て大丈夫だなんて言ってる? どけ」
俺は不満そうなティオを押しのけて、リディアの背に手を当てた。
「このマント、置いていくわけにはいかないんだ。とにかく神殿に」
リディアがうなずいたのを見て、俺はリディアの背を押すようにして神殿に向かった。正面玄関からでは人の視線を集めてしまいそうで、さっき俺が出てきた神殿脇の小さな出入り口を選んで入る。ティオも後ろからチョコチョコとついてきた。
「お前、昨日と違う」
またこれだ。やはりティオは心の中が読めるのだろう。守るのには便利かもしれないが、やっかいごとを引き起こす元にもなる。
「考えてることが見えるのはしかたないかもしれないけど、それを安易にしゃべるな。嫌われるぞ」
「リディアのもか?」
「当たり前だ。どっちにしても、上っ面だけしか見えてないだろうが」
俺が吐き捨てるように言うと、ティオはむくれたような顔になる。
「そんなことない!」
「きちんと解釈できないんじゃ同じことだろうが!」
俺が怒鳴ると、ティオはリディアの陰に隠れた。
「フォース、怒らないで。この子、子供なのよ」
「百八十歳のな」
すぐ側から俺を見上げてティオをかばうリディアに、俺は腹立ち紛れに言った。
「それでも子供なのよ」
ティオはリディアの陰に隠れたまま、まだ百七十八歳だとかゴチャゴチャつぶやいている。こいつがあと二歳、歳を取ったとしても、成長するとは到底思えない。リディアはマントを押さえたまま、ティオに向けて少し身体をかがめた。