新緑の枯樹 15-5


「何か、身体を隠せるような物を探してきてくれる? そうね、シェダかグレイさんが教えてくれるわ」
「わかった」
 ティオは執務室がある方へ、勢いよく走っていく。その姿を見送って、リディアは怖々俺と視線を合わせ、目をそらすようにうつむいた。
「ありがとう。私、また迷惑かけちゃって」
「俺は……」
 言葉が素直に出なかった。でも今言えなければ、きっといつまでたっても口にはできないだろう。言葉を選んでいる余裕など、俺には微塵もない。
「迷惑だなんて思ってない。信じてもらえるか分からないけど、俺はまだリディアを守っていたいんだ」
 リディアは、うつむいたまま微かに顔をしかめた。
「嘘つき」
「嘘なんかついてない! あ……」
 思わず口を押さえた。これじゃあティオどころじゃなく、俺も全然進歩していない。前に言われた、わからずや、偏屈、とうへんぼく、なんて言葉が頭をよぎる。
「だって、さっきティオがフォースのことを昨日と違うって言ったら、きちんと解釈できてないって」
「そうじゃない。ティオが解釈できていないのは昨日の方なんだ」
 昨日。それだけの言葉で、リディアは泣き出しそうに顔をゆがめた。後悔が俺を苛む。
「ゴメン。ひどいこと言っちまって。自棄っていうか、このままだとリディアを傷つけるだけなんじゃないかと思って、それで……」
 くそったれ。これじゃあ自分で何言ってるかも分からない。
「私……」
「俺にはリディアが要るんだ」
 先を聞くのが怖くて、俺はリディアの言葉をさえぎるように自分の想いを口にした。リディアは眉を寄せたまま俺を見上げてくる。
「城都に戻るたびに口説きにくる。何度でも、ソリストになっちまっても。ゴメン、もし辛くても、リディアには待っていて欲しいんだ」
「私、フォースを待つのは辛い」
 その言葉に、ズキッと胸が痛む。リディアはうつむくと、俺の胸のプレートにコンと頭をつけた。
「でも、フォースを失ったと思ったら、待っているよりも辛かったわ」
「……、え?」
 一瞬、何を言われたか分からなかった。思わず聞き返した俺に、リディアは頬を膨らませて見せる。
「もう、意地悪。考えといてあげるって言ったの」
 俺はリディアを両腕に包み込んだ。怒ったような表情が、ゆっくり控えめな微笑みに変わる。俺はそっと唇を重ねた。思わず昨日俺がしたことを思い出し、唇を放してリディアが怒っていないか瞳をのぞきこんだ。だがリディアは唇が離れると、不安げに俺を見上げてきた。その瞳に息苦しくなり、今度は思い切り自分の気持ちをぶつけた。あたたかく柔らかなリディアの感触が、俺の中に染み入ってくる。

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