新緑の枯樹 15-6
リディアがくれた、生きたいという気持ちを大事にしようと思う。リディアの笑顔が見たいから。リディアを感じていたいから。リディアも、この想いも、すべてを守っていきたいから。俺は唇を放しても、腕を解く気にはなれなかった。
「必ず、戻るから」
俺は自分にもそれを言い聞かせた。リディアは、ゆっくりとうなずき、俺と視線を合わせて微笑む。その頬に触れようとした時、リディアが抱えている雛が、いきなりキーと妙な鳴き声を上げた。慌てて二人でのぞき込む。
「おなかがすいているのかしら」
「そうかもな」
トタトタと音がして、ティオが走ってきた。その後ろから、何か白い布を手にしたグレイがついてくる。俺はリディアから雛を預かった。グレイがマントの上から白い布でリディアをくるみ、リディアはその下から器用にマントを取る。
「それ、ハヤブサだな」
グレイは、俺にマントを渡しながら、雛を見るなりそう言った。
「え? 断崖絶壁で育つって聞いたぞ? こんなところにいるわけが無いじゃないか」
「でも、そうだと思うよ。このあいだ鷹匠のところで見たばかりなんだ。同じだよ」
もしハヤブサだったにしても、リディアは木から落ちてきたと言ったのだ。なんだか納得できないが、確かにいたのだから仕方がない。リディアは困惑した顔をグレイに向けた。
「もしかして肉食? 虫?!」
グレイはリディアにうなずいてみせる。
「そうだね。虫か小動物の肉なんじゃないかな。フォースが育てるんだろ?」
「え? 俺?」
驚いてグレイに聞き返すと、グレイは含み笑いをした。
「街中じゃ無理だろ」
言われてみればその通りだ。俺は手にしているマントにへこみを作って、そいつを放り込んだ。
「ごめんなさい、面倒ばかり」
リディアが申し訳なさそうに見上げてくる。
「いいさ。誰か彼かに手伝ってもらうし。じゃあ、行くよ」
「待って」
リディアは、外に向かいかけた俺の腕を取って引きとめ、自分でかけていたペンタグラムのペンダントを外した。
「お願い。持っていって」
そう言うと、リディアは俺の首に手を回す。こつんと鎧に当たったペンタグラムを、俺は服の内側にしまい込んだ。俺は、自分のペンタグラムを鎧の裏から外し、リディアの手に渡した。
「行ってくる」
俺はリディアがうなずくのを見てから、外にかけだした。途中で父と話しているシェダ様とブラッドの姿が目に入る。どうしてシェダ様までと疑問に思いながら、俺はまっすぐそこに走り寄った。