新緑の枯樹 15-7
「まったく。何しに行った」
父が呆れたようにため息混じりで俺に聞いてきた。またどやされるかと思うと、自然と声が小さくなる。
「何って、服が濡れて透けてたんです。放っておけなくて」
「で? わざわざ見に行ったのか」
「ええっ? ち、違います!」
俺が慌てて答えると、シェダ様がフフッと含み笑いをした。
「リディアが快諾したら、報告を入れてくれ」
「はい。え? ……、げ」
勢いで返事をしてから、しまったと思った。だがもう遅い。シェダ様はワハハと大きな笑い声を立てて、俺の頭をバシッと叩いた。いったい笑っているのと叩くのと、どっちが本心なんだろう。
隊の中からブラッドが進み出た。
「本日からこちらの隊に配属になりました。よろしくお願い致します」
やはりブラッドの口元もゆるんでいて少しうんざりしたが、その敬礼にとりあえず返礼した。ブラッドの肩口から、木の葉が一枚舞い落ちる。その見覚えのある形に、俺は振り返って噴水の側の木を見た。間違いなく同じ葉が揺れている。
「こいつ、ブラッドの?」
俺はブラッドに、マントごと雛を差しだして見せた。
「いえいえいえいえ、とんでもない!」
ブラッドは首を振って見せたが、その過剰な否定と驚きを隠そうとしている表情が、素直に自分が雛を落としたと認めている。
俺はシェダ様に敬礼を向けてから、馬の方へと歩を進めた。ブラッドにありがとうと礼を言い、ごまかし笑いを始めたブラッドの側を通り抜ける。
俺は馬に乗って、全体を見回した。
「行くぞ」
オーッと言う声に混ざってハーイと気が抜けた返事が半分くらい返ってきて、思わず笑った。前線につく頃には、この抜けた気持ちを何とかしなくてはならない。そんなことを思いながら拳を前に動かし、はみを進めた。
「そういえば、ウィンは連れていかないんですね。なぜです?」
「諜報員だってバレたことを、仲間に気付かれては困るんだ」
アジルは訝しげに顔をしかめる。
「なんでまた」
「アルトスに会おうと思って」
簡単に言った俺に、アジルは目を丸くした。
「滅茶苦茶危険じゃないですか」
「やり方によっちゃ、そうでもないんだ。まぁ、向こうに着いてからな」
俺は、腕の中でキーキー鳴き出した雛をのぞき込んだ。
「虫を捕まえなきゃならないのか? それとも肉かな。ブラッドに聞かなきゃ」
アジルがニヤッと笑って、雛が占領している俺のマントを指さした。
「二位の印、いろいろと活用してるみたいですけど、思いっきり使い方を間違えてませんか?」
「役立てば、それでいいだろ」
笑い出したアジルを尻目に、俺は気を引き締めるために大きく深呼吸をした。