新緑の枯樹 2-4
ふと金属のぶつかる音に気付いた。城の陰から二人、正騎士の鎧を着けた奴らが姿を見せた。茶色の髪を短く切りそろえた方はイアンで、四つ年上だが同期の騎士だ。もう一人はなぜか見覚えがない。彼も正騎士だとしたら顔に記憶くらいあってもおかしくないはずだが。
彼らは、何か暗い話でもしているようにうなだれている。だいぶ近づいてから、イアンは顔を上げた。目が合ってゾッとした。気味が悪いほど顔に表情がない。感情をまるきり持ち合わせていないかのようにさえ見える。
「……フォース」
すぐ側まで来て、イアンは無理に絞り出したようなうめき声で俺を呼んだ。いや、確認か合図だったのかも知れない。隣の奴がかすかにうなずいたと同時に、イアンは俺に向けていつの間にか手にしていた金色に光る短剣を突き出した。俺は後ろに飛びすさってそれを避け、二撃目は剣を抜いてはじき飛ばした。もう一人も間髪を入れず斬りつけてくる。俺はその攻撃を剣で受け流し、そいつの鎧を蹴り飛ばして間を取った。後ろにリディアをかばって身構える。俺の背中にリディアの震えが伝わってきた。
イアンの攻撃に身体は反応したが、頭の中は混乱している。なぜイアンと剣をあわせなきゃならない?
「なんのつもりだ?!」
できる限りの大声で叫んだ。左右に建物があるので声がよく響く。これでサーディとグレイがさっきの場所にいたなら聞こえたはずだ。ここなら助けが来るまであまり時間はかからない。
「逃げ道作って合図する」
俺は後ろに下がりながら奴らとの間を保ち、リディアに言葉を向けた。
「……でも」
消え入るような声は聞こえたが、やはりひどく怯えているようだ。
「ここにいては邪魔だ」
「は、はい」
俺はわざと突き放すような言い方をした。こんな状態でリディアが走れるか不安だが、今はリディアを諭している時間もない。
戦う覚悟を決めて足を止めた。イアンが振りかぶった剣を頭上で受け、もう一人が薙いだ剣をイアンの後ろに回り込んでイアンの鎧で受けた。金属のぶつかる大きな音が耳に痛いほど響く。
「走れ!」
叫びながらリディアの方に身体を向けたイアンに足をかけた。イアンはひっくり返ったが、足を蹴られて痛みが走り、一歩行動が遅れる。低い体制のままもう一人の剣は受け流したが、イアンにタックルを食らった。背中を地面に打ち付けられて息が詰まる。もう一人が上から降らせた切っ先を首筋ギリギリで左に見送り、身体を起こしかけたイアンを思い切り剣のある左方へ蹴った。イアンは突き立っていた剣を倒してその上にひっくり返る。
俺はイアンが立ち上がり、もう一人の奴がイアンの下になっていた剣を拾ううちに、リディアとの間を遮ったところで体制を整えた。
イアンは立ち上がると、ほとんど時間をおくこともなく向かって来る。俺はその攻撃をかわして、リディアの後を追おうとするもう一人の首筋に剣の柄を叩き込んだ。気を失わせるだけの手応えがあったはずが、そいつはいきなり振り返り、その勢いで剣を薙いだ。ほとんどはじき飛ばされながら、なんとかその剣身を受け流し、次の攻撃は身体を引いて避けた。今度はイアンがリディアの方を振り返る。なんとしてもこいつらをリディアのところへ行かせるわけにはいかない。