新緑の枯樹 3-1


 城内の執務室は、特に陛下のご趣味が反映されている場所で、あまりきらびやかな装飾はなされていない。天井が高いのは他の部屋と変わりないが、壁は全面アイボリーで目に優しく、家具はマホガニー製で統一されている。現在陛下は城都を離れておいでなので、執務は当然ながら皇太子のサーディが遂行していた。
「城内警備はグラント、神殿警備はゼイン、周辺警備はバックスが担当している。当日の警備についてだが、グラントから直接指示を受けてくれ。父上の希望で宝飾の鎧を着けてもらう事になるが、それだけは承知しておいて欲しい」
 俺はサーディにひざまずいたままで最敬礼をした。上位騎士になると直接陛下に命令を下されることが多い。執務室に二人だけなら、こんなにかしこまることはない。しかし今は騎士の人事考課責任者であるクエイドがいるので、サーディは型通りの命令を下し、俺もごく真面目に命令を受けた。
 サーディは、この国に多い茶色の髪と瞳を持ち、普段は身分など感じないくらい一緒に笑いあえる普通の友人だ。だがこういう時のサーディは、ちゃんと典雅な雰囲気を持っている。
「申し上げたいことがございます」
 クエイドが顔を上げた。サーディは手を差し出して話すように促す。
「昨日の騒ぎについての報告書をお読みになりましたか?」
 クエイドはやっぱりその話を持ち出した。いいかげんうんざりだが、俺だって報告書を読んだだけならきっと文句を言いたくなる。
「一応、目は通したが。それが何か?」
 サーディも同じ気持ちなのだろう、聞き返した言葉にため息が混ざった。
「尋常な報告書としてお受けになったのでございますか? ご学友の起こした事件をなあなあに済ませてしまいたいお気持ちは分かりますが。」
 報告書を読んでも、俺が起こした事件だと思うのか、このタヌキ親爺。
「普段ならともかく、公の場でなれ合っているつもりは微塵も無い」
 俺が文句を言うまでもなく、サーディはサーディで別のことに腹を立てたらしい。
「だいたい異常だろうがなんだろうが、この報告書はそのまま受けざるを得ない。そこに名は載せなかったが、私も一部始終を目撃したんだ。そこに嘘は無いんだからな」
 サーディの口調が少しキツくなったことに驚いたのか、クエイドは慌てたようにサーディと俺との顔を交互に見た。
「しかし、そんなことが起こるのは、フォースが反戦運動などしているからではないでしょうか」
「反戦運動?」
 初耳だったのか、サーディはチラッとこっちに視線をよこした。何もそんな話をこんなところで持ち出してこなくてもいいと思うが。

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