新緑の枯樹 3-2
クエイドはまるで演説でもするかのように声を大きくする。
「敵の騎士を斬ってこないんです。生かしたまま逃がしてしまう。味方の騎士にうとまれても仕方がないと思うのです」
サーディは、手をクエイドの頭上にかざして話を遮り、あきれたように苦笑した。
「もし、うとまれるようなことがあったにしても、四人もの騎士が身を隠してまですることだろうか。第一、それは憶測に過ぎないのだろう」
「それは、そうですが。そんなことをしているからライザナルのお偉方に目をつけられたり、怪我までするようなことになるのです。まぁ、自業自得ですが」
怪我という言葉で、サーディは顔をしかめてもう一度俺を見た。怪我のことは嫌な奴を思い出してしまうので話したくなかった。それにわざわざ治りかけた怪我で、余計な心配をかけなくてもいいと思う。
クエイドはそんな思いとは関係なしに、とどまることなく話を続けている。
「しかし、最近になって子供達が妖精を目撃したという報告が増えてきていますので、シャイア神の降臨も近いと思われます。降臨さえあれば、反戦運動など考える必要のないほど戦も楽になることでしょう」
俺が反戦運動をしていることを知ってから、クエイドは俺を敵視するようになった。戦に勝つことに強い執着心を持った人だから、当然といえば当然かも知れない。だが、得意げに話を続けるクエイドが、だんだん疎ましくなってくる。しかも、もしもそうだったら、こうだったらと、仮定の話しばかりでひどく耳障りだ。いい加減頭にくる。
「随分単純に見られたものだな」
「なんだと?」
俺がボソッとつぶやいた言葉に、クエイドは目の色を変えた。俺はひざまずいたまま独り言でも言うように言葉をつなげる。
「降臨と俺がやっていることとは全然別の話だ。楽だろうが辛かろうが関係ない。戦の実態がどんなモノだか知らないとしか思えない」
クエイドは、俺を見下すように鼻先で笑った。
「本当に戦を理解していないのはお前の方だろう。なんのための騎士か、シャイア神にとってどれほど大切な事か、いい機会だからソリストに教えて貰うといい!」
だんだん語調を荒げるクエイドの方をチラッと見て、俺は口の端で笑った。
「戦場がそんなことを考える余裕のあるところかどうか、連れて行ってあげましょうか?」
「フォース、言葉を慎め」
サーディは期待通りに俺を止めに入った。
「申し訳ございません」
言いたいことはすっかり言ってしまったので、俺はあっさり退いて頭を下げた。しかし言われた方のクエイドが、簡単に引き下がろうはずはなかった。