新緑の枯樹 3-3


「余裕がないというなら、何も考えずに従えばよかろう。お前の罪悪感なんぞどうでもいい、敵は斬ればいいのだ。十四のお前を騎士に推挙したのも、敵を斬れる腕があると思ったからだ。これまで積み重ねてきた恨みを晴らすにはそれしかないのだからな。それともその特異な目のせいか? メナウルの血じゃないからそんな馬鹿げたことができるのか!」
 その言葉には、俺より先にサーディが反応した。クエイドに向かってあからさまに不機嫌な視線を向ける。
「クエイド殿も少し控えていただきたい。メナウルに住みメナウルに生きる民はどこの血であれメナウルの人間だ。それに、この戦は恨みを晴らすための戦ではない」
 言われて初めて自分の言葉の矛盾に気付いたか、クエイドは小さくなってかしこまった。
「弁解の余地もありませんが、挑発に乗ってしまい、とんだ失礼を」
 俺が何も言わないうちからベラベラしゃべっていただろうが。それとも俺の存在自体が挑発だとでもいいたいか。しかもさっきの言葉が弁解じゃないのなら、いったい何だというのか。俺は下を向いたまま嘲笑を浮かべた。俺の笑みにクエイドが気付かなかったのをいいことに、サーディはさっさと会話を引き上げにかかる。
「フォースは式典が終わるまで父上直属の部下ということになる。それを念頭に置いて他の配置を願いたい。クエイド殿への用件は以上だ。下がってくれ」
「承知致しました。では、私はこれで失礼します」
 クエイドは最敬礼をして、部屋を出て行った。サーディは大きなため息をつきながら、ひざまずいたままの俺の前に立った。
「あのな、こじれてるならこじれてるって、先に言っとけ」
「悪い、あの報告書から話がそっちに逸れるなんて思ってなかったから」
「それに初めて聞いたぞ、反戦運動だぁ?」
 サーディは立てとばかりに俺の左腕を引っ張った。
「痛てて……」
 今回受けた傷は妙に治りが遅い。その肩の軽い痛みも手伝って、俺はサッサと立ち上がった。ほんの少し俺より背は低いが、サーディは不機嫌そうな顔を難なく突き合わせてくる。
「しかも、怪我してることまで隠しやがって」
「いや、たいした怪我じゃないから」
 サーディはほとんど怒っているような顔で俺の目をジーッと見ている。こんなに濃い紺色の目は見たことがないなどと、意味無く覗き込まれることが多いので、黙って目だけを見られるのは好きじゃない。
「わかったよ、悪かったって。ちゃんと話すから」
 耐えられなくなって俺が折れると、サーディはホッとしたように息をついた。

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