新緑の枯樹 3-4


「クエイドが同席させて欲しいだなんて言うから、何かあるなとは思ってたけどな。反戦運動ねぇ。お前への敵意はそのせいか」
 クエイドは最初から反戦運動のことをサーディの耳に入れるつもりだったのだ。反対されれば、俺が止めざるをえないと思ったのかもしれない。
「やっていることは、騎士を斬らないってだけなのか?」
 俺のやっていることは、サーディには重要視されていないようだ。残念と言うよりは、このくらいが普通の反応だと思うし、サーディにはその方が有り難い。一国の皇太子が反戦なんて唱えたら、国の半分が敵になってしまうかも知れないのだ。俺はうなずいて見せた。
「だとしたら、さっきのクエイドの言いようは随分おおげさに聞こえるな。実際成果はあるのか?」
「この戦は意味がないと公言した騎士は何人かいたけど、どうだかな。彼らに行動を起こせと命令できる立場でもないし。やってて自分でも不毛だと思うよ」
 俺は頭の中を横切ったアルトスの陰を振り払って苦笑した。あんな奴に目をつけられたら、反戦の芽が出る前に踏みつぶされてしまうかもしれない。
「本人がそんなこと言ってるんじゃな。だけど、さっきの話しを聞いていたら、俺にはどっちも正しく聞こえるよ。情けないけど」
「だけど、きっとどっちも間違ってるんだ」
 俺がつぶやくように言った言葉に、サーディは口をつぐんで眉を寄せた。
「戦なんてやってること自体が間違いなんだ。根本的に間違っていることの中に正しい理論なんてあるはずがない」
 サーディは視線を落として考え込んでいる。何を考えているのか、少しの間黙っていたが、大きなため息をついて口を開いた。
「本当に、俺は何も知らないと思うよ。戦や街の実態を知るどころか、ろくに話も聞けないでいるってのに、まわりは一体どんな仕事を俺に求めているんだろう」
 危ない目に遭わせるわけにはいかないので、前線には視察に出られない。街にもごくたまにしか行けない。サーディはそんな生活を送っている。誰もがサーディを守ろうとするように、本当は俺もサーディに都合の悪いことは全部隠しておきたいと思う。でも、それでは駄目なことをサーディはちゃんと分かっているのだ。それがまた、安心だったり不安だったりするのだが。
「お前、そろそろ神殿警備の方に行かないとな」
 サーディの言葉に、俺はうなずいてドアの方を向きかけた。
「じゃあ」
「俺も行くよ」
 振り返ると、サーディは俺のすぐ後ろまでやってきた。
「まだ話しは終わってないだろ」

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