新緑の枯樹 4-1
「ソリストを神殿からエスコートし、歌っている間側でひざまずいて待ち、聖歌終了と共に神殿にエスコートして戻る。ほんっとに、それだけなんですね?」
いろいろな質問をし続けるサーディと一緒に、城内警備室へとやってきた。俺は二位の騎士であるグラントさんから受けた命令を、一字一句そのまま復唱して確認した。グラントさんは含み笑いを返す。
「たまにはこういう楽な仕事もいいだろう」
苦笑した俺の手を取って、ゼインは笑いながら大きく握手をし、バックスは俺の背中を強く四度バンバンと叩いた。ゼインは俺より少し大きいくらいだが、バックスは上背もあって力も強いので、甲冑の上から叩かれても結構身体に響いてくる。サーディは彼らの手荒な祝福を見て、グラントさんの椅子に座ったままケラケラと笑った。ここに顔を出すことが多いのか、下手をしたら騎士仲間に見えそうなくらい馴染んでしまっている。
それにしても、なごやかな雰囲気だ。前線での忙しさが嘘のように感じる。楽な仕事と言うよりは、あまりにも手持ち無沙汰で逆に落ち着かない。
「君の隊は、城内警備と神殿警備に借りるよ。勤務は明日からだ。後で名簿を渡そう」
俺はグラントさんにハイと返事をして敬礼をし、同意を示した。
「ところで、どうしても礼を言いたいというのでな、私の隊のブラッドだ」
グラントさんが部屋の隅を指し示すと、控えていた兵士がキチッとした敬礼をした。茶色の髪が揺れる。襲われた時、加勢に入ってくれた兵士だ。わざわざ礼を言うために、ここで待っていてくれたのか。ちょっと気が重い。
「あの状況で助けて頂いて感謝しております。助けに入ったつもりで、すっかりご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした」
ブラッドは丁寧にお辞儀をした。俺も軽く頭を下げる。
「いや、ゴメン。あのあと、あなたを助けたことをすごく後悔したから、あんまり感謝されても困るんだ」
「は?」
俺の言ったことに対して、ブラッドだけではなく、まわりのみんなが怪訝そうな顔を向けてくる。俺は思わず苦笑を浮かべた。
「首を絞められて、本気でもう駄目だって思った時、短剣を投げたりしなきゃよかったって思、ぶ」
いきなりバックスに口を後ろからふさがれ、俺は最後まで話せなかった。
「馬鹿正直な。せっかくなんだから、恩でも売っておけばいいのに」
俺はムッとしてバックスの腕を押しのけ、文句を言うために振り返った。
「何言ってる。そんなことをして俺にまだ余裕があると思われたら、今度は命に関わるんだぞ?」
「そ、そうか。スマン」
バックスはバツが悪そうに頭を掻いた。
「しかし、助けていただいたのは事実ですから。ありがとうございました」
ブラッドはキチッとした敬礼を向けてきた。俺はあまり気が乗らなかったが、とりあえず返礼をした。
サーディが、ふと思い付いたように視線を向けてくる。
「そういえば怪我は大丈夫なのか? 見た感じでは、普通に動けてたみたいだけど」