新緑の枯樹 4-2
「左肩だし、軽いからな。剣を持つ分には、ほとんど支障はないんだ」
フーンと一度うなずいてから、サーディは不思議そうにまた俺の顔をのぞき込んだ。
「なんで肩なんか怪我したんだ? 鎧は着ていたんだろう?」
ゼインがニヤニヤした顔で、横から鎧をぶつけてくる。
「寝込みでも襲われたんだろ」
「馬鹿言え、鎧ごと斬られたんだ」
俺が弾みで言い返した言葉に、サーディは眉を寄せてグッと口を結んだ。戦を知らない人間には、恐怖に聞こえるかもしれない。安易に言ってしまった言葉を後悔したが、もう遅い。
グラントさんがサーディの側へ行き、肩に手を置いた。
「サーディ様、残念ながら万全な武装は存在しません」
「そんなことは分かっている。いや、分かっているつもりだっただけなのかもしれないけど。あの騒ぎも、自分の目で見たのに、現実じゃないみたいで」
サーディは一息ついてから、不安げに俺の顔を見上げた。
「さっき、今度は、って言ったよな? あれはあれで、終わってはいないと思うのか?」
「俺もリディアも無事だったからな。襲うことが目的だったならこれで終わりかもしれないが、奴らの望みが他にあるなら油断はできない」
今度はできるだけ耳障りのいいように言葉を選んだつもりだった。でも、その事実は不気味に重くのしかかってくる。奴らのことは何一つわかっていない。こっちは対策を立てることもままならないのだ。
急にゼインが俺を指さす。
「そういえば、リディアさんに護衛をつけたほうがいいんじゃないか?」
俺は、今頃気がついたのかと罵りたい気持ちをグッとこらえた。
「今はアジルがついている。これからのことは、シェダ様とリディアに相談してみるつもりだ」
ゼインは、ホッとしたのか、がっかりしたのか、複雑な表情で俺にうなずいて見せた。
「フォース、どうして襲われたのか心当たりはないのか?」
バックスが珍しく真面目な声を出した。俺は思考を巡らせてみたが、命を狙われるほど恨まれるようなことは、やはり思い出せない。
「考えてはみたけど、何も思いつかないんだ。それこそクエイド殿が言っていた、相手の騎士を斬らないってことくらいで」
ゼインが両手を広げて首を横に振る。
「それはないと思うけど?」
バックスも納得できるのか、大きく何度もうなずいた。
「俺もそう思うな。フォースがやってることと奴らがやってることの規模が違いすぎる」
その意見はもっともだと思う。ただの殺意なら、わざわざ姿を隠したり消したりなどという面倒なことをせずに、さっさと俺を殺してしまえばいいことだ。
「その点は私も同感だな」
グラントさんも同意した。これに関しては疑いの余地はないように思う。バックスは腕組みをして眉を寄せた。
「じゃあ、リディアちゃんの方になにか原因が? って、これも考えにくいんだよなぁ」